【越山若水】〈ひとたきに菊菜のかをりいや強く 高浜年尾〉。作者は東京の生まれ。でも、後に兵庫県に移り住んだ。それなら納得する。「菊菜」と呼ぶのは主に関西である▼その香りを言葉にするのは、なかなか難しい。鼻にツンとくるようでいて爽やかな…といえば少しは当たっているだろうか。菊菜こと春菊の出荷がいま盛りだ▼冬ざれの戸外とは対照的に、ハウスのなかは一面の緑。けさの本紙でみずみずしい光景をお楽しみいただきたい。あの独特の香りも漂ってきそうな気がしませんか▼おや、その香りが嫌い? ほろ苦い味も。実は、そういう人が少なくないようで、鍋の具材に挙げられながら敬遠されがちだという。書いている当の本人がかつては苦手だった▼それが一転して好物になったきっかけを、恥ずかしながらお伝えしておこう。牛肉の炒め物をするのに適当な青菜がなかったので、春菊で代用してみた。それだけのことである▼学んだのは鍋物にするより美味ではないかということ。茎がシャキシャキして苦くない。そのはずである。苦みは葉を加熱すると出るそうで、炒め物の方がふさわしい▼ついでにいえば、東京産は苦く広島産は甘い。傷みやすいから広く流通させるのに不向きで、各地に個性的な春菊を生んだようだ。「食べる風邪薬」の異名がある。料理法次第で苦くない、いまに最適の良薬だ。

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