【論説】山積する喫緊の課題については受け流す程度で、相変わらず成果を並べ立て、キャッチフレーズ型の政策を連呼する―。安倍晋三首相が通常国会冒頭で行った施政方針演説にはこんな印象が拭えなかった。

 今国会で最重要課題に浮上した厚生労働省の「毎月勤労統計」不正問題に言及したのは、30ページ余の原稿のうちわずか4行。政策立案や判断の土台となる基幹統計がゆがめられ、政府に対する信頼が損なわれている事態という認識があるのだろうか。陳謝はしたものの、具体的な再発防止策などには一切触れなかった。

 特別監査委員会の調査では、一部の聞き取りを厚労省職員が行ったほか、原案の作成にも関わっていた。新たに次官級の審議官や官房長が幹部職員への聴取に立ち会い、質問をしていたことも判明し、「外部有識者による第三者調査」という中立性は形式だけにすぎなかったことが明らかになった。

 相次ぐ公文書改ざんやデータの不適切処理は議会政治の根幹を揺るがす問題だ。首相は財務省の不祥事を受け「行政の長として責任を痛感している」と述べていたが、統計不正ではそうした言葉もなかった。

 過少給付の救済に関しては「できる限り速やかに、簡便な手続きで不足分をお支払いします」と述べた。だが、受給者の中には住所が分からない人が1千万人以上いるとされ、かなりの時間を要するという。そうした状況を分かった上での発言なのかと問い返したくもなる。

 首相は、4月から大企業で導入される罰則付きの時間外労働規制について「企業経営者の皆さん、改革の時は来ました。準備はよろしいでしょうか」と呼び掛けた。一方、同じく4月にスタートする外国人労働者の受け入れ拡大には「新たな成長につなげる」などとしただけ。支援策などが一向に示されない国民からは政府の準備不足に不信感が渦巻いている。

 外交では「地球儀を俯瞰(ふかん)する視点」を改めて強調した。ただ、元徴用工訴訟判決などで冷え込む日韓関係には触れずじまい。足元さえ俯瞰できないようでは「戦後外交の総決算」などとは言えないはずだ。

 ロシアとの北方領土交渉しかり。日ソ共同宣言を基礎に「2島返還」へ方針転換したのかも明確にしないままでは国民理解は得られない。「国民の支持が必要」とするプーチン大統領らロシア側につけいられるだけではないか。

 演説では相変わらず「1億総活躍社会」「地方創生」「観光立国」「国土強靱(きょうじん)化」といったフレーズが躍った。「平成の、その先の時代」を7回も繰り返し新しい時代に向けた政策展開をアピールしたが、目新しさは感じられない。

 宿願である憲法改正に至っては、国会での議論の深化に期待感を示しただけで、各党に改憲案を示すよう迫った昨年の施政方針からのトーンダウンが著しい。参院選のための争点隠しに終始した演説だったと言うほかない。

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