【越山若水】茶わんから立ち上る湯気を例に、地球上の雲の仕組みを解説。子どもたちに自然現象の不思議を語り、科学的な探究心を刺激したのは物理学者の寺田寅彦である▼同じようにシャンパンの美しい泡の謎に着目し、発生の理由を詳しく調べたのがフランスのG・リジェ=ベレールだ(渡辺政隆著「一粒の柿の種」岩波書店)▼研究はもちろん、シャンパーニュ地方で行われた。そして驚きの結果が待っていた。魅惑的なあの泡は、ぴかぴかに磨き上げられたグラスからは出なかったという▼そのメカニズムをひもとくと、シャンパンの液体の中で二酸化炭素の泡が立ち上がるには、核となるエアポケットが必要になる。その元になるのがセルロース繊維の空洞である▼布巾で磨いたグラスには目に見えない繊維が付着し、空気中を漂うちり・ほこりもくっつく。それがなければ、シャンパンから溶け出した二酸化炭素は泡立たず、表面から放出されるだけになる▼ある意味、一介の繊維くずやほこりが美しい泡を創造し、液面に到達した気泡がはじけ口や鼻に至福の香気を届ける。まさしく科学の不思議そのもの▼思い浮かぶのは「無用の用」という言葉。古代中国の書籍「老子」の出典で、一見何の役にも立たないようなものが、実は大事な役割を果たしていることを表す。世の中の真理を言い当てていると、つくづく思う。

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