【論説】真相解明に程遠い内容だと思ったら、調査対象である厚生労働省の職員が報告書作成に関わり、聞き取り調査の一部も身内で行っていた。これでは調査自体が隠蔽(いんぺい)目的だったのではないかと疑わざるを得ない。

 15年間にわたる不正が発覚した「毎月勤労統計」問題で厚労省の特別監察委員会がまとめた調査報告書を巡り、衆参の厚労委員会で閉会中審査が行われた。根本匠厚労相は報告書のたたき台を厚労省職員が作成したことを明らかにした。さらに監察委が職員を聴取したものの、一部については内部職員だけで実施したことも判明した。

 監察委の調査報告は初会合からわずか1週間。不正のきっかけを企業や都道府県側の苦情や要望としたのに、自治体側の聴取もしていなかった。加えて第三者としての中立的な検証を根底から覆すような手法が取られていた以上、政府は調査をやり直すべきだ。

 調査報告書では、2004年から始まった東京都分の全数調査から抽出調査への変更や、復元処理の未実施、18年1月以降の改変プログラムの導入などに言及。「担当者が上司への相談なく判断」「漫然と前例踏襲されていた」「部局長級職員は実態の適切な把握を怠り、是正しなかった」などとする一方、「意図的とまでは認められない」と組織的隠蔽(いんぺい)を否定した。

 だが、省職員によるたたき台作成や聞き取りで、都合のいい筋書きや口裏合わせが行われていたとの疑念が膨らんだ。厚労省は「お手伝いとして議論を整理した」「監察委の指示に従って聴取した」としたが、信じようにも無理がある。

 監察委委員長は省所管の独立行政法人理事長であり、いわば身内だ。与党からも「組織的関与、隠蔽」との声が上がるが、ならば調査の妥当性を問うべく委員長を国会に出席させる必要があったが、そうしなかったのはなぜか。政権への忖度(そんたく)が疑われる。

 とりわけ、昨年は手法の異なる統計数字を公然と比べる対応を取っていた。賃金の伸び率を大きく見せることで、安倍晋三首相が経済界に求めた3%の賃上げが達成されたかのように偽装した可能性も指摘されている。統一地方選や参院選への影響を危惧する政権、与党が早期幕引きを図ったと思われても仕方がない。

 統計法違反の影響は重大だ。それにもかかわらず、次官ら22人の処分を急いだのもそんな思惑ではないか。不十分な報告書を基にした処分は撤回すべきだ。

 勤労統計を基に雇用保険や労災保険などを過少に支給された対象者は延べ約2千万人、追加支給の総額は計560億円に上る。厚労省の答弁ではどこまで救済されるのか見通せない。さらにはシステムの構築や事務費に約200億円が必要という。全て保険料や税金からの支出で、つけは国民が払わされる形だ。

 そうした中判明した「お手盛り調査」(野党)で、国民不信の増幅は避けられない。安倍政権は失態に真摯(しんし)に向き合うべきだ。

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