【論説】「戦後70年以上残された課題の解決は容易ではない」。日ロ首脳会談後の共同記者発表で安倍晋三首相はそう指摘したが、いまさらの感がある。見通しは甘くなかったのか。

 北方領土問題を含む平和条約締結交渉前段の外相会談でラブロフ外相は、第2次大戦の結果、ロシア領になったことを日本側が認めるのが交渉の前提と主張。ロシア名の「南クリール諸島」を北方領土としている点にも注文を付けている。

 さらには安倍首相が会見などで「北方領土のロシア住民に、日本に帰属が変わることを理解してもらう必要がある」と述べたのにも「首脳合意に反し、受け入れがたい」と非難した。ラブロフ氏の発言は一貫しており、プーチン大統領も述べてきたことだ。

 ただ、発端はプーチン氏が昨年9月に「あらゆる前提条件をつけず、年末までに結ぼう」と言及したことだった。11月の首脳会談で1956年の日ソ共同宣言を基礎として「交渉を加速させる」(安倍首相)ことで合意した経緯がある。

 ラブロフ氏が強硬姿勢を示す一方で、今回の会談ではプーチン氏が柔軟な対応を見せる、日本側にはそんな楽観的な観測もあったが、「ロシア側にとって、実効支配する島を渡す理由はない」(日本の外務省関係者)のが実態だろう。プーチン氏は年金問題で急落した支持率、領土引き渡しに対する国内の反発などを受け、ブレーキを踏まざるを得ない状況にある。

 安倍首相は歯舞群島と色丹島の2島の返還が確約できれば、条約を締結する方向で検討しているとされる。日ソ共同宣言に盛り込まれ、宣言を支持するプーチン氏から譲歩を引き出せるとの見立てだが、返還した島に日米安全保障条約が適用される懸念を指摘するなどハードルを上げているようにも見える。

 プーチン氏は会見で「条約は両国の国民に受け入れられ、世論に支持されるものでなければならない」と述べた。ロシアの国民感情を意識したものだが、日本にとっても重要な要素だ。日本政府は長年、国後、択捉の2島を加えた4島を「固有の領土」と主張し続け、国内では今も4島返還を訴える声が少なくない。

 領土という重大な国益が絡む問題だけに、交渉経過を国民に明らかにするのは難しいことは理解できる。ただ、2島返還の説明もなく、前のめりになる姿勢は異様に映る。政府には可能な限り国民に説明し、理解を得る責任があるはずだ。

 首相は「戦後外交の総決算の年」とレガシー(政治的遺産)づくりに執着するが、2島で決着した場合、責任を問う声も噴き出しかねない。ロシアのクリミア半島編入や米選挙への介入疑惑を巡って対立する米欧への説明も欠かせない。

 共同発表からはスタート地点に立っただけとの印象が拭えない。外相協議を経て6月の大枠合意を目指すとしているが、先の外相会談を見る限り無理がある。長期戦への覚悟があるかも問われよう。

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