【越山若水】読んで字のごとく書類作成を代行する「代書屋」に、客が来た。氏名の漢字を尋ねると「おまかせします」。生年月日を聞けば「そういうもんはなかったような」▼客の応答が可笑(おか)しいこの噺(はなし)は昭和の初めに作られた。作者の実体験が元にあるらしい。代書が商売になったのだから、それほど字を書けない人がいた証拠だ▼子ども時分に学校へ満足に通えなかった。漢字とか生年月日とかむずしいことはしらんから、とぼけた返事になる。そんなふうにこの噺を聞けば切なくなってくる▼似たような切なさを覚える。先日の大学入試センター試験で、1人の受験生が国語の問題文を読むのに定規を使った。それが不正と見なされ、全ての科目の得点を無効にされた▼ネットに同情の声がある。規則は規則だとセンターの判断を支持する意見もある。そこに割って入る気はないのだが、ある疑念がぬぐえない。その子は読字障害ではないか、と▼1行ずつ定規を当てて読む姿からの当て推量にすぎない。そのくらいはセンターも考えたはずだと思う。でも、それにしては結論を出すのが早い▼一口に読字障害と言ってもいろいろあると聞く。字がゆがんで見えたり、いつの間にかほかの行を読んでいたり。世界的な名映画監督のスピルバーグさんも、その障害に苦しんできた。あの受験生もそうなら…と思うと見過ごせない。

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