【論説】農業新時代の幕開けになるだろうか。国連の「家族農業の10年」が、ことしを初年として2028年まで展開される。

 家族農業とは、国連の定義によれば労働力の半分以上を家族で賄う農業のこと。日本の「小農」がこれに当たる。

 非効率で時代遅れ、とのイメージが一般的だろう。その家族農業・小農を奨励するのは、なぜか。背景には、大規模な近代的農業に環境汚染などの弊害が目立ってきた実情がある。

 むしろ家族農業こそ持続的。そんな評価が世界の主流になったといえる。日本はどうするのか。新たな分岐点に差し掛かっている。

 ■「決死の巻き返し」■

 国連は、14年を「国際家族農業年」と定めたことがある。今度の「10年」はこれを延長した格好だが、単なる延長ではないとの見方がある。

 そこには、国連食糧農業機関(FAO)と世銀・国際通貨基金(IMF)との闘いの歴史がある、と鈴木宣弘東京大教授は指摘している。

 FAOは、途上国の農業発展と栄養・生活水準の向上がもともとの役割。一方の世銀・IMFは途上国の開発援助を担う。だが、後者は米国主導。途上国を余剰農産物のはけ口としたい米国や、大規模農業を進めたい多国籍企業などの意向が強く反映され、FAOとの路線対立が生じていた。

 主導権を握ったのは世銀・IMF。各途上国で関税や市場規制を撤廃し、輸入穀物に頼らざるを得ない食料政策などを推進した。なかでも規制撤廃が徹底されたのはサハラ砂漠以南のアフリカ諸国だが、一帯は飢餓や貧困が集中したままだ。

 その現実を鈴木教授は、米国の穀物メジャーなどによる「収奪」だと批判する一方、国際家族年や「10年」の動きはFAOによる「決死の巻き返し」なのだと説明している。

 ■重油相場が経営左右■

 世界の農家の9割は家族農業・小農で、食料全体の8割を生産しているとされる。日本の場合は99%が小農だ。これらが大規模農業に置き換えられていくと、何が起きるだろうか。

 佐賀県の農民作家である山下惣一さんが、かつて共同通信の取材に語った話が示唆的だ。

 山下さんの知人で大規模なハウスミカンの経営者は、重油の値下がりで約400万円以上も燃料代が浮いた。だが、重油が高騰したときには400万円ほど損をして苦しんだ。「重油の相場でもうかったり損したり、これって農業と言えるのか」

 大規模農業は燃料や肥料、農薬を大量に使う。環境や食の安全面で問題が残るうえ、資材価格の上昇や生産物の相場下落に弱い。投資額が大きく、経営路線を変更するのも引き返すのも難しくなる。大規模農業は持続可能ではない、というのが山下さんの認識である。

 ■韓国では「強小農」■

 家族農業・小農が世界的に再評価されているのを追い風とみてか、韓国は「強小農プロジェクト」を推進している。

 小規模でもブランド牛を育てる農家や、山奥に10万本のウメの木を植えて人気の観光スポットにした女性農業者らが生まれたという(日本農業新聞)。

 一方、安倍政権の農業政策は、経営規模の拡大や農産物の輸出促進などを通じて「もうかる産業」に育てることを目指している。そこで韓国を見習え、との声も出ている。

 先の山下さんの農業観は、そのどちらでもない。家族で農業をして「むら」を受け継いでいくことが第一で、重要なのは「成長よりも安定、拡大よりも持続」だという。

 古くさいようだが、世界が見直す農業観でもある。農村という共同体が次々に失われてゆくいま、もうける農家が仮に現れても、ほかに仲間がいない村では確かに甲斐(かい)がありそうには思えない。

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