【論説】北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が新年早々に中国を訪問した。既に4度目という異例のペースの訪中は、近く開催ともされるトランプ米大統領との再会談に向け、後ろ盾となる習近平(しゅうきんぺい)国家主席との連携を深め、米国に制裁解除を迫る布石にしようとの狙いだろう。米国との貿易摩擦を抱える中国にとっては北朝鮮への影響力を示す好機であり、貿易交渉のカードにしたいとの思惑も透ける。

 一方のトランプ氏は国境への壁建設予算を巡って、下院で過半数を握った民主党と対立している。この内政の行き詰まりを、外交で挽回すべく、早期に再度の米朝首脳会談に打って出ても不思議ではない。そうした中、日本は北朝鮮問題で相変わらず「蚊帳の外」にある。それどころか、協調すべき韓国との間でレーダー照射問題などを巡り軋轢(あつれき)を起こしている。存在感を示す道を早急に探るべきではないか。

 金委員長は新年の辞で、国民に対して初めて肉声で「朝鮮半島の完全非核化」を誓い、核兵器をこれ以上つくらないと明言。「再び米大統領と会う準備ができている」と再会談を求めた。制裁を続ける米国へ「圧力で進むなら新たな道を模索せざるを得ない」との脅しも忘れなかった。

 注目すべきは、朝鮮半島の平和体制構築のため朝鮮戦争の休戦協定当事国による多国間協議を提案したことだ。朝鮮半島の将来設計を巡り、中国の関与を強く促したものと受け取れる。今回の訪中もその流れにあることは明白だ。

 金委員長の訪中は「習主席の招請」とされる。北京では米中貿易協議が行われている真っ最中。中国側は特別な意図はないと強調しているが、習氏が自らの北朝鮮に対する影響力を米国に誇示したとの見方が専らだ。「新冷戦」と称し、米国を挙げて中国たたきに向かう矛先を少しでもかわそうとの狙いだろう。金委員長に、米国に対する何らかの譲歩を求めることもありうるとされる。

 トランプ氏は2日の閣議で、昨年末に金委員長から親書を受け取ったことを明らかにし「われわれは(首脳会談を)そう遠くない将来、開催する」と述べた。返信したとも伝えられ、会談は近いとの臆測を呼んでいる。返信を受けた金委員長が会談の開催を確信し、訪中した可能性も取り沙汰されている。

 気がかりなのは米朝の実務者レベルの協議がどこまで進展しているかだ。再会談で核施設のリスト申告など非核化に向けた具体的な道筋が煮詰まらないままでは、昨年6月の会談の二の舞いを演じかねない。

 そのことにくぎを刺すべきは安倍晋三首相だろう。ただ、間もなくスタートする日米通商交渉を控えるなど、どこまで進言できるかは心もとない。22日からスイスで開かれるダボス会議では日米首脳会談も予定されている。6月に大阪で開かれる20カ国・地域(G20)首脳会合を成功に導くためにも、存在感を発揮すべきだろう。

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