【越山若水】それは本棚の奥でほこりをかぶっていた文庫本。多くの執筆者のなかに宮沢喜一元首相の懐かしい名前を見つけ、つい読んでみる気になった▼いまからちょうど70年前、1949年の内幕話が書いてある。日本は連合国軍の統治下にあり、インフレ経済に苦しんでいた。そこへ米の銀行家ジョセフ・ドッジが乗り込んできた▼その経済政策は「ドッジ・ライン」と呼ばれる、といえばお分かりだろうか。旧大蔵官僚だった宮沢さんは、それを池田勇人蔵相の秘書官として体験したのだった▼「極めて古典的な哲学」と、宮沢さんは皮肉っぽく評している。出す金をけちって税金は多く取る。単純な政策だ、というのだろうが実行する方はつらい。国民に耐乏生活を押しつける勇気が要った▼政府は先の公約通り、所得税減税や公共事業費の増額などを予算原案に盛っていた。が、ズタズタにされた。ドッジと折衝してきた池田蔵相は、与党内でつるし上げられた▼その後の日本の経済成長は、ご案内の通りである。そこで、ドッジは「恩人」といわれる。けれど翌50年の夏、東証株価は史上最安値を記録している▼だから経済は分からない、と素人の当方は頭を抱えるばかり。ことしも明けて早々の株価は2万円割れで始まった。不安が頭をよぎるが、ひるむ必要は全くない。過酷なドッジ・ラインに耐えたご先祖を思えば。

関連記事