【論説】地域の外、あるいは国外では評価が高まっているのに、身近さのあまり価値に気づきにくい―。当たり前すぎて見過ごしがちな日本の食文化を見つめ直す絶好の機会が年末年始だ。地域の食材を使い、1点1点に意味やいわれを込め受け継がれてきたおせち料理は、地域の伝承料理の最たるもの。新年に食べるおせちこそは日本の食文化だ。おいしくいただいて、食卓に並んだ料理について家族で話し合うことは、食文化の伝承そのものである。

 雑煮は、みそか、すましか。具は何を入れるか。地域や各家庭で異なる雑煮について、里帰りした家族と話すだけでも盛り上がる。農林水産省のサイトでは「個性いろいろ伝承のおせち料理」の一つとして、南越前町の「柿巻き」が紹介されている。特産のつるし柿を開いてゆで卵をくるみ、薄力粉をつけて揚げる。この記事で料理をつくった地場料理店「土の駅今庄」に聞くと「この辺りは、昔はほとんどの家がつるし柿を作っており、鶏も飼っていた土地柄。正月を祝うめでたい席の料理として、食材を組み合わせたのでは」とのことだった。

 雪深い山あいという地域性が、冬の保存食としてつるし柿を生み、それがおせち料理となって伝承された例だ。サイトで紹介された同町のもう1点、山芋のツルにできる「むかご」を使った「むかごのごまあえ」は、晩秋に収穫したむかごを正月の食卓に並べる。土の駅今庄の担当者は「むかご料理を相当に調べたが、ごまあえは他の地域では見当たらない。福井特有の食文化」と誇らしげだった。

 本紙が連載した地方新聞10紙の連携企画「日本海スタイル」では、「地域を味わう 進む観光戦略」として、青森県深浦町から鳥取県境港市まで日本海側10都市の食と観光戦略、さらに国連教育文化機関(ユネスコ)の食文化創造都市に指定される山形県鶴岡市の取り組みなどを紹介した。

 深浦町の深浦マグロステーキ丼、新潟県佐渡市の佐渡ブリカツ丼、兵庫県朝来市の岩津ねぎなど、食べてみたくなる料理や食材が並んだ。鶴岡市は自分たちが食べる分の作物を代々作ってきた結果、約60種類もの在来作物が受け継がれる。

 観光資源に磨き上げる過程やきっかけは違っても、これらの食や食材は、それぞれの地元の人たちが担い手になってきたからこそ続いてきた。地元の人とは、私であり、あなたである。食文化は日常だ。地域の食文化伝承といっても身構える必要はなく、普段通りの年末年始を過ごすことが一番である。年越しそばをいただき、初詣に出かける。そしてお正月は、おせちをみんなでおいしくいただいて、話をしよう。

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