【越山若水】「できることは全てやる」。これをスポーツ選手が口にしたら、決意の表れだろう。けれど政治家が使ったときは注意がいる。言外に「できないこともある」との本音がにおうからだ▼このセリフを安倍晋三首相は好むようで、災害対応や沖縄の基地負担軽減で使用例がある。ただそれは「いつまでに」「何を」果たす目的か、語られることがどうも少ない▼ゴールが見えないまま、政策を「総動員だ」と言って省庁から集めれば「できること」「やりやすいこと」しかやらなくなる。スローガン政治の欠点だが、環境政策も典型的といえないだろうか▼石炭火力発電は高効率化による温室効果ガス削減をうたう一方、2030年に全電源に占める割合を26%と想定。ところがこれはパリ協定の削減目標に見合わないと、複数のシンクタンクが懸念する▼石炭の割合がこんなにあったら削減目標の方は届かないというのだ。業を煮やしたか、神奈川県に本部を置く「地球環境戦略研究機関」が先月、国に提言した▼「望ましい姿をまず示し、その達成に何が必要か描く」よう求めたのである。バックキャスティングと呼ばれる発想で、できることだけやる積み上げ式とは対照的▼目新しい考え方ではなく、温暖化など環境問題では常識的アプローチらしい。それを今さら指摘されるとは、政府は大いに恥じるべきではないか。

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