【越山若水】このご時世にこう言っては語弊があるかもしれないけれど、女性ならではの歌である。「たつぷりと真水を抱きてしづもれる昏(くら)き器を近江と言へり 河野裕子(かわのゆうこ)」▼「近江」とは淡海(あわうみ)、つまり淡水の湖で琵琶湖を意味している。「新・百人一首」(文春新書)で、選者の一人となった歌人の穂村弘さんは次のように解説した▼上の句の表現には「歌枕の地として知られるこの湖と胎内に子を孕(はら)む母なるもののイメージが二重写しになっている」と。男には作れそうもないと改めて感嘆する▼この「しづもれる器」は、たっぷりと抱いた真水を近畿圏の1400万人に分け与えている。無数の動植物をもはぐくんでいる。そんな母なるものは、日本にはまだ数多く残る▼その有り難みをどこまで感じているのだろうか。水道事業の運営権を企業など民間に委託することを盛り込んだ水道法改正案がきょう、参院本会議で採決される見通しだという▼「コンセッション方式」というカタカナ語がキーワードだ。運営は民間でも認可権は自治体が持ったまま、という方式である。だから心配ない、と安倍晋三首相は言う▼地球上の真水は全体の3%もなく、すぐに使える地表の水となると0・01%しかない。途上国では水不足や汚染が深刻だとも聞く。再公営化が相次ぐ世界の動きに逆行したような法は、親不孝者の浅知恵に似る。

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