【論説】トランプ米大統領と中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席の首脳会談では、貿易問題の解決に向けた対話を継続し、来年1月からの追加関税を見送ることなどで一致した。貿易戦争がさらに激化する事態がひとまず回避されたことは歓迎したい。

 しかし、90日間の期限付きで、これまでの関税措置はそのまま。互いの覇権を巡る「新冷戦」の様相を呈し解決策が見通せない中、両国経済は無論、世界経済への長期にわたる深刻な影響も懸念される。両国は大局的見地に立って実のある協議に徹すべきだ。

 トランプ氏は強気の姿勢を崩さないだろう。中間選挙で下院を民主党に押さえられ、内政面では制約を受ける。制約の少ない外交や通商交渉で成果を上げ、2年後の大統領再選への試金石としたい思惑がある。

 対中関係では党派を超えて警戒感や不信感があることも追い風だ。ペンス副大統領が2度の演説で、不公正な商慣行や知的財産の盗用、覇権主義的な途上国支援、人権問題などを厳しく指摘。議会も含め米国の総意ともされている。

 一方、習氏にとっては発展計画「中国製造2025」に沿って25年の「製造強国」、49年には世界トップとなるとの目標は国民への公約であり、簡単には譲れないはずだ。国営企業の整理などは「1強」体制の足元を揺るがしかねない。

 ただ、貿易摩擦の影響は、特に中国国内で出始めているという。自動車の販売台数が前年同月比で1割強減少するなど、経済状況を示すさまざまな指標に表れているとの指摘がある。

 影響は米国にもじわじわと広がりつつある。自動車大手のゼネラル・モーターズ(GM)が先月、国内工場の閉鎖など大規模なリストラを発表。背景には、関税による資材調達のコスト増もあるとされる。

 今回の合意は「一時休戦」でしかなく、解決策が見いだせない場合、世界経済への一層の悪影響は避けられない。保護主義やナショナリズムに火がつけば、経済だけでなく軍事的な緊張にもつながり、世界の不安定化も招きかねない。

 一丸となって回避すべき20カ国・地域(G20)首脳会合は、首脳宣言に焦点だった「保護主義と戦う」との文言を入れなかった。08年の米リーマン・ショック時の危機対応能力は見る影もなく、機能不全があらわになった格好だ。

 世界3位の経済大国である日本には、両国を取り持つ役割が課せられるが、安倍晋三首相の対応には「板挟み」の感が拭えない。関係改善が緒に就いたばかりで、習氏に踏み込んだ要請ができたのか疑問が残る。トランプ氏との会談では対日貿易赤字の削減を求められ、最新鋭戦闘機の購入話まで持ち出された。

 日本は双方から非難を浴びかねない、難しい立ち位置にいることは否めない。しかし、米中の対話が実を結ぶためにも、米国には過度な要求を抑制すること、中国には悪慣行を改善することを真摯(しんし)に働き掛け続けなければならない。

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