【論説】台湾の統一地方選は、与党の民主進歩党(民進党)が大敗。蔡英文(さいえいぶん)総統が、兼務していた民進党主席(党首)を辞任する事態となった。この選挙は2020年の次期総統選の前哨戦といわれていたが、蔡政権の求心力低下は必至だ。中国が「一つの中国」原則を受け入れない蔡政権に対し、揺さぶりを強めることも予想され、政治的混乱は避けられない状況だ。

 民進党は、牙城とする高雄市で敗れるなど、22県・市の首長ポストを選挙前の13から6へと半分以下に減らした。対して最大野党の国民党はポストを6から15に増やしている。事実上の首都、台北市の市長選は無所属現職の勝利だった。

 蔡政権は、公務員の優遇措置を削減する年金制度改革などの改革路線を進めてきたが、有権者には不満が広まり、蔡氏の支持率は低迷していた。加えて観光業を中心とする経済問題も選挙に影響した。中国が大陸観光客の台湾旅行を制限したことが背景にある。

 対中関係で民進党は独立志向が強く、国民党は融和路線を取る。このため中国は、「アメとムチ」を駆使し、蔡政権にさまざまに圧力をかけてきた。旅行制限の他、台湾の外交関係を断つ孤立化戦略を強引に進める一方、台湾人に大陸での修学、就業、生活に便宜を図る優遇政策を公表するなどしたのが一例だ。国民党が政権奪還への足掛かりを築いたことで、中国はさらに蔡政権を揺さぶってくるのではないか。蔡氏は党勢回復に向けて難しいかじ取りを迫られる。

 ただ、台湾の住民の約6割は、中台関係の現状維持を望んでいるという。統一選と同時に行われた住民投票で、東京五輪に「中華台北」ではなく「台湾」で参加申請する是非を問われた件は否決されたが、これは「むやみに中国を刺激すべきでない」という冷静な判断の表れ、とも指摘される。

 経済交流、民間交流が活発な日本にとっても、台湾海峡の平和と安定は望ましい。国民党の融和路線が支持されたのかどうかを含め、中台関係の今後を慎重に見定めていく必要がある。

 一方、今回10件が行われた住民投票の中で、福島など5県からの食品輸入規制が継続することになったのは極めて残念だ。投票を提案した国民党は、日本が輸出する食品が検査済みで安全であることを説明しなかった。蔡政権が輸入へ向け規制緩和に乗り出していたため、これを批判する狙いだったとされ、日本の食が政治利用された形。結果的に、台湾有権者に日本産食品への根拠なき懸念が広まることになってしまった。

 救いは、この件については台湾内にも批判があることだ。台湾大学病院の医師は、メディアで「砂に頭を突っ込んだダチョウのように真実を見ていない」と述べたという。福島県などには失望が広がっている。菅義偉官房長官は「あらゆる機会に規制撤廃を働き掛ける」と述べたが、その言葉通り、政府には日本の食に問題がないことを伝える努力を求めたい。

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