【論説】2大国の稚拙な振る舞いに、世界があきれたのではないか。アジア太平洋経済協力会議(APEC)で米中が繰り広げた通商問題を巡る批判合戦をみると、両国の早期の歩み寄りは見込めないだろう。日本は、多国間の自由貿易体制構築の推進役を担う立場にある。米中対立に起因した世界経済の減速を防ぐためにも、日本の役割は一層重みを増している。

 APECは本来、オープンで自由な貿易体制を発展させることが目的である。しかし、首脳会議は米中が非難をぶつけ合う修羅場と化した。

 米国が主張したのは主に中国の不適切な取引慣行である。中国側は、米国の極端な自国第一主義を批判した。それぞれ一理あるとはいえ、ともに自国の主張を首脳宣言に盛り込むことにかたくなにこだわり、各国は振り回された。初めて首脳会議議長国を務めたパプアニューギニアの再三のあっせんも実らず、宣言が採択できなかった。同首脳会議発足以来、初のことだ。

 オーストラリアのメディアによると、宣言案の折衝が続いていたさなか、中国代表団がパプアの外相の部屋に強引に押し入ろうとする場面があったという。

 採択見送りの理由を聞こうとする記者たちに、同国のオニール首相が取り囲まれる騒ぎも起きた。安倍晋三首相も、会議日程がすべて終了する前に会場を離れてしまった。

 米中が、報復関税の応酬に自制を働かすことなく貿易戦争が続いていけば、世界経済への影響は避け難い。また、米国が日本をはじめ各国に対し、力を背景にした2国間交渉を迫っていることは、貿易縮小や企業活動の萎縮につながりかねない。

 こうした中で日本は、環太平洋連携協定(TPP)、欧州連合(EU)との間で合意した経済連携協定(EPA)を着実に発効していくことが重要である。東アジア地域包括的経済連携(RCEP)は目標としていた年内実質妥結を果たせなかったが、交渉をできるだけ加速させたい。これらの枠組みは、参加各国の共栄を図り、米国の保護主義的措置に対抗する手段となる。

 同時に、大事なことが二つある。一つは、TPPなどの影響を受ける国内農業強化策の着実な実行である。20日の経済財政諮問会議で強化に取り組むことが確認され、第2次補正予算案で具体化が図られる。単なる景気対策にとどまることなく、農業競争力強化支援法の検証を踏まえ、適切なメニューをそろえなければならない。

 もう一つは、年明けに始まる米国との通商交渉で、日本の立場を毅然(きぜん)として貫くことである。米国は物品の関税に限らず、経済活動の制度についてや、円安問題なども取り上げてくる可能性がある。そこで安易な妥協をすれば、TPPや日欧EPAの参加国から不信を招きかねない。もちろん、日本国民の失望を買うことも、政府は肝に銘じておくべきだ。

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