【越山若水】「煮大根や烏賊(いか)の諸(もろ)足そり返り 松根東洋城」。日本人にはなじみの深い野菜・ダイコン。寒い冬の温かい煮物が何よりだが、品種は多様で一年を通じて手に入る▼ダイコンの歴史は古く、古代エジプトではピラミッド建設の労働者に報酬として支給された。しかし食用にはされず、種子から油を採るのが目的だったという▼その点わが国では平安中期に「大根(おおね)」と呼ばれ、鎌倉初期には春の七草に「すずしろ」の名で登場する。兼好法師も「徒然草」でダイコンの薬効を題材にしている▼九州で兵隊を率いる役人は「土大根を万(よろづ)にいみじき薬とて、朝ごとに二つづゝ焼きて食いける」のが日課。ある日、不意を突かれ敵軍に館を包囲されたが、見知らぬ兵士2人が現れ撃退してくれた▼「かく戦ひし給(たま)ふは、いかなる人ぞ」と尋ねると「朝な朝な召(めし)つる土大根らに候(さうら)う」と言って立ち去った。何事も深く信じていればこその恩恵だ、と法師は解説している▼現に、ダイコンに含まれる酵素ジアスターゼは消化を助け、辛み成分イソチオシアネートには殺菌作用がある。ただ熱に弱いためお勧めは大根おろし▼一方、やわらかく味がしみ込んだ煮物はカロリーが少なくダイエット向きという。さて福井名物のおろしそばや焼き魚のおろし添え、さらにはおでんやふろふき大根、みぞれ鍋…。晩秋の食卓はにぎわいそうだ。

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