【論説】幕末明治期に福井および全国で活躍した由利公正の評伝がミネルヴァ書房から発刊された。明治の世が開かれてちょうど150年、坂本龍馬がその経済手腕を買って新国家の財政担当に推した手紙など新史料が続々と見つかり、由利の新時代開拓の働きにあらためてスポットが当たる中での評伝の登場は意義深い。

 1人の執筆者が本格的に手がけた由利の評伝は戦前にいくつか出版された。由利に関する書物はその後も多数出され顕彰は続けられたが、いまひとつ史実や思想がはっきりしていなかった。由利や評伝執筆者の記憶のあいまいさや旺盛な武勇談など、信頼性に乏しい部分があると指摘されてきた。藩の財政難の原因を自ら調べたり商売に傾倒していったりと、自分勝手な「異端児」という“横顔”が独り歩きし、それが敬遠されたとみる歴史家もいる。

 今回の評伝の執筆を担った歴史研究家で福井市立郷土歴史博物館館長の角鹿尚計さんも、近年まではあまり関心を持たなかったという。しかし、龍馬らの新出史料の存在や県内の博物館に所蔵されていた史料の精査で由利の行動が裏付けられ、さらに詳細な状況が分かってきた。角鹿さんは「これは今、書き残さなければ」と意を決したという。

 福井に住む研究家として、由利自身の手紙や短歌などの文芸をひもとき心情、思想を探る中で、福井という風土との関わりを強く浮かび上がらせたことも、今回の評伝の特筆すべきことだろう。薩長ではない重要な第三極にあった福井の中で何を思いどう動いたのか? 橋本左内や横井小楠、松平春嶽らは彼をどう評価し、どんな影響を与えたのか? 「異端児」となる背景が示されている。

 「書き進めば進むほど興味深い人物だと思った。波瀾万丈(はらんばんじょう)の人生を送り、福井への誇りを持って、あらゆる困難や非難にめげずに立ち向かった由利は、やはりドラマのヒーローになり得る」とも角鹿さんは語る。

 折しも本紙では由利を主人公にした小説「鸞翔(と)ぶ」が連載中だ。人物像が豊かに描き出されている。今年は県や市町、団体が展示会や催しを精力的に開き、幕末明治期に福井が果たした役割が多くの人たちに発信された。先日は由利ファンの女性たちによる「越前に学ぶ会」が始動。福井の今につながる由利らの働きを理解し、福井の今後を考えようという。自然豊かで趣深い福井の土地の魅力とともに伝えたいとするしなやかな目線があり、新たなウエーブが起こり始めていると実感する。

 150年の記念の年はもうすぐ終わるが、きら星のごとく人材を輩出し、時代を切り開いた福井の歴史を掘り下げる作業を終わらせるのはもったいない。新たな評伝の誕生はそれを示唆しているように思われる。

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