【論説】「1956年(の日ソ)共同宣言を基礎として、平和条約交渉を加速させる。そのことで、プーチン氏と合意した」。安倍晋三首相がロシア大統領との会談後に発したコメントだ。

 共同宣言は平和条約締結後、北方四島のうちの歯舞群島と色丹島を引き渡すことを明記している。2島返還を選択肢に交渉を進めていく考えならば、北方四島の帰属問題を解決し平和条約を締結するとする従来の日本政府の基本方針を大きく転換させることになる。

 首相は国後、択捉両島を継続協議とすることで確約を得たい考えだろう。だが、プーチン氏が2島引き渡しで決着を図ろうとした場合、残る2島は放棄することになりかねない。そうなれば国内世論も黙ってはいないはずだ。首相とはいえ軽々に決められる問題ではない。国民理解を得るためにもまずは丁寧に説明すべきだ。

 日ソ共同宣言に関してプーチン氏は、2001年に当時の森喜朗首相とのイルクーツク声明で有効性を確認。国後、択捉両島を継続協議とする森氏の「2島先行方式」提案をプーチン氏は拒否しなかったとされている。森氏の後任の小泉純一郎首相がこれを否定し北方四島の帰属確認を優先したため、領土交渉が停滞期に入った経緯がある。

 安倍首相も4島返還の方針を貫いてきた。16年の山口県長門市での会談では4島での共同経済活動を平和条約の締結の一歩とすることで一致した。ただ、ロシア側には、提示された共同経済活動の規模が小さい上に、遅々として進まないことに悲観的な見方も出ているとされる。

 こうした現状に一石を投じたのが9月のプーチン氏発言だ。安倍首相は無論、中国の習近平(しゅうきんぺい)国家主席らを前に「一切の前提条件を抜きにして年末までに平和条約を結ぼう」とボールを投げ掛けた。日本国内では「領土問題の棚上げ」と警戒の声が上がったが、首相は「意欲の表れ」と好意的に受け止めたようだ。

 首相は今回の会談について「外交交渉だから」と明らかにしない可能性がある。ただ「2島先行」を前提に交渉を進めるにしても、プーチン氏の真意を慎重に見極める必要がある。

 ロシア国内では北方四島に関して「第2次大戦でロシア領になった正当なもの」と2島であっても返還に反対する声が強い。プーチン氏自身も「ロシア国民にとって(領土問題は)敏感な問題」と述べている。ましてや年金問題などで支持率が急落している中ではありえないのではないか。さらに、返還後の米軍駐留の可能性を指摘し、けん制した過去もある。今回の会談後も、日ソ共同宣言に主権について明記されていないと、2島引き渡しでさえ厳しい条件を突きつけた。

 首相は「次の世代に先送りすることなく、私とプーチン氏の手で終止符を打つ」と前のめり感をあらわにした。残る任期3年のレガシー(遺産)としたい気持ちは分かるが、期限を切った外交交渉は危うさが漂う。

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