本書の刊行を楽しみに待っていた。「週刊ポスト」に連載中のベテラン男優へのインタビュー集であり、『役者は一日にしてならず』の続編だ。スターや脇役、悪役23人の役者人生と仕事論、演技術がぎっしり詰まっている。

 まず芸談がとびきり面白い。橋爪功は台本を音読しない。「音が一度でも入ると、もう現場で自由がきかなくなる」からだ。ナレーションの名手でもある石坂浩二は「声にも長調と短調がある」としてBGMに調性を合わせて語るという。

 現役最高齢91歳の織本順吉のせりふ術は「相手の話をちゃんと聞いてない時は息を吐きながら聞く。…引く息で聞くと本気で聞いている感じになっていきます」。

 共通しているのは恩師や先輩の教えの大きさだ。加藤武は杉村春子に言われた「あんたの芝居は全て借り物。自分で作りなさい」。中村嘉葎雄は台本に沢村貞子が書いた「事の破るるは得意の日にあり」。寺田農は三木のり平から「君の気持ちじゃなくて役の気持ちでやってよ」と言われ、「役の気持ちじゃない。客の気持ちになるんだ」とも諭された。

 中村錦之助、森繁久彌、三國連太郎、三船敏郎、勝新太郎、森光子、高倉健、緒形拳……最大の敬意を持って語られる名優たちの導きとふるまいに思わず胸が熱くなる。

 俳優たちは先輩から受け取った知恵や技術を現場で後続世代に伝えようともしている。彼らが蓄積してきた技芸は貴重な文化遺産だ。本書のような取り組みがもっと体系的になされていい。

(小学館 1700円+税)=片岡義博

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