【越山若水】柿の木に特別な思いをよせた一人に、あの種田山頭火がいる。実よりも「武骨な枝、野人的な葉」を愛し「日本的だ」と日記に書いている▼漂泊の旅を続けた後、郷里の山口県内に結んだ「其中庵(ごちゅうあん)」の周りには柿の木が多かった。かやぶきの小庵に似合って、山頭火にやすらぎや喜びをもたらしたと聞く▼花より団子の当方にも分かる気がする。初夏は柿若葉の輝かしさに心が晴れ晴れとするし、少し緑を残して葉が色づく秋もしみじみとした風情に胸を打たれる▼このところ目に付くのは、近家の敷地に植わった柿の木々である。鈴なりの実は食べごろに熟したようなのに、渋柿なのか、取る人もいないのか、いつもそのままにされている▼そして、きょうは「立冬」である。1932年11月7日付の山頭火の日記には、こうある。「今日は立冬、寒い、寒い、洟水(はなみず)が出るから情(なさけ)ない。冬隣から初冬へ。晴れてはあたゝかく、曇れば寒い」▼幸い、ことしは鼻水が出るほど寒くはない。これからの数日も同様らしいが、山頭火の名句を借りれば「うしろすがたのしぐれていくか」の冬へと、着実に季節は歩む▼41人が亡くなった北海道の地震から2カ月たち、仮設住宅への入居が始まった。それでもまだ150人以上が避難生活をしているという。現地の寒さは、わが北陸でも想像がつかない。冬を足止めしたい気持ちだ。

関連記事