【論説】生きるのに不可欠なのは同じなのに、空気は無料で水には金がかかる。いまさらながら、そんな現実が恨めしい。

 衆院を通過した後、参院で継続審議になっていた水道法改正案が、いまの臨時国会で再び審議される。

 改正案は水道事業の広域連携や官民連携を進めるのが狙いだ。なかでも水道施設の運営権を民間事業者に任せる仕組みが新しい。だが、海外では同じような「民営化」で料金が高騰したり水質が悪化したりして、公営に戻す事例が相次いでいる。

 日本はいわば時代遅れの古いバスに乗り込む格好だ。慎重な審議を願いたい。

 ■厳しい経営環境■

 市町村が独立採算制で経営する水道の普及率は、ほぼ100%。だが経営環境は厳しい。人口減少などに伴い、水需要が2000年をピークに減り続けているからだ。これら事業体の約3割はすでに、費用が収入を上回る原価割れを起こしている。

 高度経済成長期に整備された水道管の老朽化が進み、更新が追いつかない実態もある。厚生労働省によると法定耐用年数の40年を超える水道管は、15年度末の全国平均で約14%ある。

 水道事業の経営基盤の強化は避けて通れない。そのために必要な法改正なら、誰にも異存はないだろう。

 今回の改正案で気がかりなのは、民間事業者に事業の運営権を売却する官民連携の仕組みを導入するとしていることだ。行政が施設を保有したままの「コンセッション」という方式だから「民営化」ではない、との国会答弁や識者の指摘がある。たとえ、その通りだとしても懸念は消えない。

 ■本家・パリの経験■

 パリの事例がある。19世紀半ばに大規模な都市改造を行うと同時に上下水道も整備したパリ市は、世界に先駆けて水道事業を民間に委託してきた。そのなかでノウハウを築いたのが「ベオリア」と「スエズ」の2社で、いまでは世界的な水道事業の企業として「水メジャー」と呼ばれるまでになっている。

 その委託方式の一部にはコンセッションが取り入れられていた。ところが仕組み上、パリ市の監督が行き届かないなどの問題があり、水道料金の引き上げが度重なった。この結果、市民の不満が高まり2010年1月、事業は再公営化された。

 民間委託の本家だっただけにパリの経験は重要だ。いまから民間委託に踏み切る必要性が本当にあるのか、パリの二の舞いを演じることはないのか、冷静に議論する必要がある。

 ■本来担うべきは…■

 負の民営化例はほかにも多い。悲惨な例として近年知られてきたのは南米ボリビアの「コチャバンバ水紛争」である。

 1990年代後半に水道事業が民営化されると料金が2倍以上になり、支払えない貧困住民への供給を民間事業者が容赦なく止めるなどしたため暴動に発展。200人近い死傷者を出している。

 こうした実情が明らかになるにつれ、再公営化の流れは途上国に限らず増えている。英国に本部を置く公共サービスの調査機関によると、00~15年に世界37カ国の235水道事業が再公営化されている。

 資金難の自治体にとって、老朽化した施設の更新費は重い負担に違いない。コンセッション方式によって民間資金が取り込めるなら、すぐにも飛びつきたいのが本音だろう。先の国会ではPFI(民間資金活用による社会資本整備)法が成立し、コンセッション方式の導入に有利な条件も盛り込まれている。

 だが、命に直結する水道事業は誰にも等しく安価で安全・安心な水を供給するのが何よりの役割だ。それは、国や地方公共団体が担うのが本来でもある。目先の利益にとらわれてはならない。

関連記事