【越山若水】2人の幼い娘を事故で失った母親は、1年9カ月後にようやく遺体の写真を確認することが許された。むごたらしい写真だったが、毎日おむつ替えのたびに拭いてあげたお尻でちゃんと娘だと分かった。母親は懐かしさに泣いた▼父親は写真を見なかった。2人は生前の元気さのままに、夢に出てきてくれていた。夢の中の姿が変わってしまうことを恐れた▼悲劇は19年前、東京の東名高速で起きた。追突してきたトラックの運転手はちゃんと立てないほど酒に酔っていた。危険運転致死傷罪成立のきっかけともなった事故である▼写真のエピソードは、母親の井上郁美さんが執筆した「東名事故から十年目の訴え」で知った。井上さんには日本社会が「飲酒運転という犯罪をあまりにも甘く許している」との怒りが今も消えない▼日航副操縦士が飲酒状態で操縦しようとしたとして英国で逮捕された。呼気1リットル中のアルコール濃度は0・93ミリグラム。事実なら東名事故の運転手から検出されたと伝わる数値を上回る▼臭いに気付いたのは移動に使ったバスの乗務員というが同僚は不審に思わなかったのか。検査をすり抜けたことといい、不可解な事件である▼井上さんは、「飲んだら乗るな」の標語は誤りだという。「既に飲んだ人」に判断を求めているから。飲んだら最後、正常な判断ができなくなるのがアルコールである。

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