【論説】韓国大法院(最高裁)が新日鉄住金に賠償を命じた韓国人元徴用工訴訟判決が、日韓関係を根底から揺るがす危機的な状況に追い込んでいる。判決に対して安倍晋三首相は1日の衆院予算委員会で「あり得ない判断だ」と改めて批判。一方の文在寅(ムンジェイン)韓国大統領は国会での施政方針演説で一切言及しなかった。

 原告側は、新日鉄住金側が賠償支払いを拒否した場合、韓国にある資産を差し押さえる構えも示している。このままでは日本企業の韓国進出や投資などにも影響が出かねない。国家間の国際法上の約束を反故(ほご)にする判決であり、日韓両国が一致する「未来志向の関係」にも暗雲が漂う。文政権は急ぎ対応を示すべきだ。

 元徴用工の請求権は、1965年の日韓国交正常化に伴い合意した請求権協定で「最終的に解決した」とされてきた。さらに2005年には韓国の盧武鉉(ノムヒョン)政権が元従軍慰安婦や被爆者の個人請求権は消滅していないとした際、徴用工は含めず、その後、特別立法で救済している。

 こうした経緯を今回、韓国最高裁が「植民地支配と直結した日本企業の不法行為を前提とする強制動員被害者の請求権は、協定の対象に含まれない」と真っ向否定した格好だ。類似の訴訟は一、二審で賠償命令が出たものだけでも11件あるという。最高裁の最終判断が示された以上、それらについても賠償判決が下されるのは避けられない。加えて20万人に上るとされる元徴用工が一斉に訴訟を起こす懸念も拭えない。

 韓国政府は判決後、民間の専門家を含め対応策を検討するとした。ただ、これまでのように韓国側が賠償金を支給することは韓国世論の非難を浴びかねない。政府などによる財団を設立し日本企業が加わる案も想定されるが、日本政府は否定的だろう。

 そもそも今回の判決は12年5月の差し戻し審の再上告の場のことであり、結果は織り込み済みだったとされる。文政権が日韓関係を考慮すれば、何らかの手を打つ必要があったはずだが、朴槿恵(パククネ)前政権の「司法取引」が追及される中、手を縛られたとの指摘もある。

 韓国政府は、国際観艦式で自衛艦旗(旭日旗)を掲げないよう求め、ここに来て元慰安婦を支援する財団の解散も示唆するなど、文氏の意向を映す対応に出ているような節が見える。一方で北朝鮮への融和には前のめりだ。

 ただ、韓国の訪日客が昨年714万人に達し、就職難の中、日本企業を目指す韓国学生も増え、国民の「嫌日」意識も年々解消が進む。対応次第でこうした流れに水を差しかねず、過去の協定や合意を覆すこと自体が国家の尊厳に関わることを肝に銘じるべきだ。

 安倍政権にとっても訪日韓国人の足が遠のく事態は避けたいし、何より北朝鮮の拉致問題を解決する上で、文政権は大きなチャンネルでもある。韓国政府の対応をまずは見極めるべきだ。対話の窓口をオープンにすることも必要だろう。

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