【論説】英国の欧州連合(EU)離脱交渉が迷走を深めている。離脱条件を定める協定の大筋合意を目指していた10月中旬のEU首脳会議は進展がなかった。協定をつくれないまま、来年3月の離脱期限を迎える最悪のシナリオが現実味を帯びる。世界経済の混乱を招きかねない事態に、日本政府は十分備えておくべきだ。

 難航の主因は、英領北アイルランドとEU加盟国アイルランドの国境の扱い。英EUは同国境の自由往来の維持では一致するが、手法としてEU側は、北アイルランドだけをEU関税同盟に残すことを提案。英側は、英国全体の一時的な関税同盟残留案などを主張する。英国にとってEU案は国の分断を意味し、受け入れられない。英国の主張はEUにすれば、単一市場の恩恵を受けつつ、独自の移民政策などが可能な「いいとこ取り」と映る。

 英国内の離脱強硬派と穏健派の対立も混乱に拍車を掛ける。英紙報道によると10月、実務者レベルでいったん、合意がまとまりかけたが、首脳会議直前になって閣僚らの不支持を恐れたメイ首相が待ったを掛けた。合意は英国案に近い形だったとみられるが、国境の扱いなどで折り合いがつかなかった可能性がある。トゥスクEU大統領は加盟国首脳への書簡で、無協定離脱の可能性が「かつてなく高まった」と警告した。

 交渉は、10月の大筋合意を経て11月に最終合意を行い、各国の議会承認手続きの時間を確保するはずだった。だが11月の臨時首脳会議は白紙になり、最終合意は早くても12月。メイ氏がそれまでに、国内の政治対立を解消できるかどうかは不透明だ。

 無協定離脱となれば、英EU間で関税が即時復活。部品調達や納品に影響が避けられず、進出企業は対応に苦慮する。トヨタ自動車は英国工場の一時停止を想定。日産自動車は今秋予定していた英工場の賃金改定交渉を来年に先送りした。

 英国の屋台骨といえる金融業でも、拠点を欧州へ移動する事例が相次いでおり、無協定離脱で国外流出が一層深刻化する可能性がある。航空会社も英―EU加盟国間の運航権を一時的に失う。欧州の経営者からは「無協定離脱のリスクが過小評価されている」との悲鳴が上がる。

 離脱はもともと経済リスクを伴うものだけに、英EUは離脱交渉をスムーズに行い、国際社会の不安解消に努めるべきだった。現状は不安が増すばかりだ。

 日本政府が目配りすべきことは多い。進出日本企業の支援に全力を挙げるとともに、世界経済混乱のリスクを最小限に抑える努力が求められる。一つの手段として、英国が意欲を示す環太平洋連携協定(TPP)合流についての評価、分析を急ぎたい。

 また、早期発効を目指す日EU経済連携協定(EPA)への離脱の影響を精査しておくべきだ。EUは対英交渉では一枚岩になっているといわれるが、ドイツのメルケル政権弱体化が及ぼす影響にも注意が必要だ。

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