【越山若水】「話をもっと聞かせてほしい」。プレゼンで最も大事な鍵は、相手にこう思わせることだという。大西洋航路を発見したコロンブスはスペイン王室に対して魅惑的なキャッチコピーを用意した。「黄金の国ジパングへ行こう」と▼彼は思惑通り航海費用を引き出し、高い地位と報酬を約束させた。けれどジパングを信じていたのかはどうもあやしいのだとか▼王室と交わしたサンタフェ契約にはジパングの文字はなく、行き先は「大洋の島々や大陸」とあるのみで「東方」を意味する言葉も消えていたという▼王室はその気になった。契約では広げた風呂敷を畳んでおこうとした―と、CMプランナー林寧彦さんが著書「歴史を動かしたプレゼン」でコロンブスの狙いを読み解いている▼日中会談後、安倍首相が使った「3原則を確認」との言い回しに、中国は触れない。成果を誇ろうとするあまり、首相が国民への「プレゼン」を飾りたてた結果だったのか▼確認した中身は双方に食い違いがなさそうだし、首相は「確認内容を私は3原則と呼びたい」と言うべきだった。なぜだか主語を省くからややこしい▼日米で交渉する「物品貿易協定(TAG)」も日本側しか使わない造語だ。外交成果を確認するのに、いちいち首相の言葉遣いを検証しないといけないのでは困る。コロンブス流の風呂敷はやめにしてもらいたい。

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