【論説】安倍晋三首相が繰り返し述べてきた「沖縄の皆さんの心に寄り添う」は一体何だったのか。

 米軍普天間飛行場の移設に伴う辺野古新基地建設を巡り、沖縄県が辺野古の埋め立て承認を撤回処分としていたのに対して、石井啓一国土交通相が処分の効力を一時停止すると発表した。事実上、埋め立て再開へのゴーサインであり、岩屋毅防衛相は「工事をできるだけ速やかに再開したい」との意向を示した。

 玉城デニー知事が憤るのも当然だ。辺野古建設に反対してきた翁長雄志前知事の遺志を受け継ぎ、知事選で安倍政権が支援する候補に8万票の大差をつけ圧勝した。選挙結果を考えれば、基地建設は強行できないはずだ。政府の対応は、玉城氏を支持した沖縄県民の民意を踏みにじるものと言わざるを得ない。

 玉城氏は就任後間もなく、首相や菅義偉官房長官と面談し、新基地建設に反対する考えを改めて伝えるとともに、県と政府、米軍による協議会の設置を求めた。首相らが新知事と早期に会ったのは、県民の声に丁寧な対応が必要だと考えたのだろう。ただ、首相は「辺野古が唯一の解決策」との方針は変えなかった。一方で「沖縄に米軍基地が集中する現状は是認できない」「負担軽減に向けて着実に結果を出す」とも伝えていた。舌の根も乾かぬうちの強行には理不尽さが否めない。

 沖縄県側は意見書で、行政不服審査法に基づく防衛省沖縄防衛局の申し立てを国交相が認めたことに対して、同法が個人の権利を守るために制定され国による申し立ては制限されているとしていた。2015年10月に埋め立て承認を取り消した際にも使われた手法であり、野党から「政府内での身内同士の茶番劇にほかならない」との批判が上がる。そもそも沖縄県が200ページ以上にわたる意見書を国交省に送付したのは24日。1週間もたたず判断が示されたのは「埋め立てありき」にほかならない。

 知事選では玉城氏、与党支援候補の双方が在日米軍の法的地位を定めた日米地位協定の抜本見直しを訴えた。だが、首相は衆院の代表質問で部分的な改定が進められてきた現状を追認しただけで「抜本改定」には触れなかった。

 政府は普天間の早期の危険性除去や、新基地による抑止力を理由に掲げるが、辺野古周辺の住民が新たに事故などにさらされる危険性はないのか。さらに、米朝首脳会談の実現などで安全保障環境が大きく変わる可能性もある。約20年も前に決まった辺野古への建設計画が有効なのかも再検証されるべきだ。

 基地の運用には地元の理解が欠かせないことは明らか。地上配備型ミサイル迎撃システム「イージス・アショア」の配備には、候補地の自治体首長が反対を表明。その際、菅氏は「地元の理解が大前提であり、懸念や要望に丁寧に対応する」と述べていた。ならば沖縄の声を葬り去ってはならないはずだ。

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