【論説】水月湖の湖底堆積物「年縞(ねんこう)」をテーマにした若狭町鳥浜の県年縞博物館がオープンして1カ月が過ぎた。入館者は開館37日目に1万人を突破。福井しあわせ元気国体・大会の際には、皇太子さまや秋篠宮ご夫妻が見学された。県内での認知度は徐々に高まっているようだ。

 泥の堆積物の展示という一見すると地味な分野だが、実は世界の歴史を書き換えたり、今後の地球の姿を予測したりできる可能性を秘めた壮大な研究だ。のどかな三方五湖のほとりでじっくりと進む世界屈指の学術研究を注視したい。

 ■世界標準■

 県年縞博物館は水月湖年縞の価値を広く知ってもらおうと、県が2014年に計画。17年に着工し14億8千万円をかけ建設した。

 メインの展示物は約45メートル、7万年分の年縞実物標本。連続した年縞では世界一の長さを誇る。年縞は植物やプランクトンなどが湖底に積み重なった地層で、1年ごとに明暗一対のしま模様ができる。厚みは平均で1ミリにも満たないが、しまの数を数えることで堆積物の年代特定が可能だ。

 堆積した葉っぱなどには年月とともに減少していく放射性炭素が含まれており、この量を測定すれば、同量の炭素を持つ遺物の年代特定ができる。水月湖年縞の詳細なデータが世界各地の年代特定に向けた基準となった。「世界標準のものさし」といわれるゆえんだ。

 ■新たな知見■

 世界一の地位を得た水月湖年縞だが、本当の価値は年縞を用いたことで得られる新たな知見だろう。水月湖年縞の「ものさし」を用いることで、従来より詳細な年代特定が可能となった意義は大きい。

 例えばマヤ文明の起こりは従来、紀元前800年と考えられていたが、水月湖年縞を用いた調査などで実際は、さらに200年さかのぼることが判明。他の文明の文化を取り入れて築き上げられていたことが明らかになった。

 年代特定が精度を増したことで、歴史教科書を書き換えるほどの新たな知見が今後も出てくると考えられる。

 また、年縞に含まれる化石や花粉を詳細に分析することで、過去の気候変動を解析できるという。過去を知ることは未来につながり、将来の気候変動の予測や、それに対応する方策を考えるヒントにもなる。

 この研究は、博物館に併設された立命館大古気候学研究センターが取り組んでいる命題でもある。「ものさし」が真価を発揮するのは、実はこれからなのである。

 ■教育観光に力を■

 学術研究拠点として期待される同博物館だが、県は嶺南観光の核としても育てていく考えである。入館者の目標数は年間6万人で、11月に東京で出向宣伝を行うなど県内外で博物館の知名度を上げていく計画だ。

 集客やリピーター増を図るため、年内には隣接する町若狭三方縄文博物館と連携し、特別企画展を開く。両博物館はともに歴史をテーマとしている。それぞれの特長を生かした連携が今後の大きな鍵となりそうだ。

 小中学生など、子どもたちの見学も増やしたい。世界レベルの研究を、その舞台となった湖の近くで学べる意義は大きいのではないか。

 単純に6万人という数字を追う以上に、どのように教育とリンクし、どういう学びを提供できるのか、検討を進めてほしい。教育観光のまたとない素材として、博物館の利用が広がることを期待したい。

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