【越山若水】身の丈五尺にちょうど合っていたらしい。福井県立歴史博物館の特別展で見た橋本左内着用と伝わる紋服である。五尺は当時の平均より小さかった。けれど左内が描いた国家構想は誠にでっかいものだった▼会期がだいぶ過ぎてしまったが、左内の考えを学びたくて立ち寄った。書簡に「日本国中を一家と見候」と書いたのは、安政4(1857)年である▼坂本龍馬が脱藩もしていないこの時期から「藩」を超越した視野があった。その上で英国への警戒をあらわに「信義に厚いロシアと同盟、それまでは米国を頼みとする」と世界戦略を明確にする▼実現に向けた国家の人事も構想しているが、これに左内の真骨頂が表れる。井伊直弼の名があるのだ。言うまでもなく、後の左内の悲劇を招いた張本人だ▼左内は人事について好き嫌いにこだわらず「天下有名の賢才」を配するとした。それでこそ「随分とひと芝居できそう」という。左内の目がきらきら輝く様子が浮かびそうな書簡である▼先日の安倍晋三首相の所信表明演説全文を読み返すたび疑問が膨らんでいる。この演説に「希望にあふれ、誇りある」未来を首相自身本当に感じているのかと▼ひと言でいうと「守りの演説」。一例だが国際情勢に立ち向かうとしながら迷走する米国の外交は触れずじまい。少子高齢化の処方箋もしかり。歯がゆさが募っている。

関連記事