【論説】安倍晋三首相が日本の首相として約7年ぶりに中国を公式訪問し、習近平(しゅうきんぺい)国家主席らとの首脳会談を行った。平和友好条約40周年とあいまって終始歓迎ムードとなった背景には、米国との貿易摩擦などで孤立感を深める中国が日本の取り込みを図る狙いが透ける。

 一方、日本にとっては2012年の尖閣諸島の国有化以降、冷え込んだ関係を改善し、世界2位の経済大国となった中国から実利を引き出したいとの思惑がある。会談を通じ関係強化へ多くの果実を得る一方、米国が日中急接近をどう見るか。米中のはざまで難しいかじ取りも求められる。

 尖閣問題に加え、13年12月に安倍首相自身が電撃的に靖国神社を参拝したことが険悪な関係の引き金となった。その後は参拝を控えるなど自重。この間、中国では習氏が権力基盤を固め、今年3月には終身で国家主席を務めることも可能にした。「世界一流の軍隊づくり」を掲げ、米国に比肩する「近代化強国」を目指し、まい進してきた。

 習氏にとって誤算は、トランプ米政権がここに来て、対立を先鋭化させていること。貿易だけでなく、政治、経済、軍事のあらゆる面で中国を批判。新たな「冷戦」とも受け取れる強硬姿勢を鮮明にしている。

 こうした情勢下で行われた安倍、李克強(りこくきょう)両首相の会談では、第三国のインフラ開発や海難救助など幅広い分野での協力強化に合意した。習氏との会談でも「競争から強調へ」といった新原則を確認。関係構築に向け多彩な分野での連携でも一致した。日本の要求を丸のみしたかのような形は苦境の裏返しともいえる。

 両政府による「第三国市場協力フォーラム」では両国以外でインフラ投資などを共同展開するための52の覚書も締結した。日本が巨大経済圏構想「一帯一路」への協力を具体的に表明したものだが、同構想は多額の資金貸与で途上国の財政悪化や政情不安をもたらし「新植民地政策」との反発も出ている。片棒を担いだとの批判を招かないためにも、安倍首相のいう「開放、公正、経済性が条件」を貫く必要がある。

 気がかりなのは「東シナ海の安定」を求めたものの、直接尖閣諸島を巡る対立に触れなかったことだ。一触即発の事態を避けるためには中国公船の侵入に注文をつける必要があったのではないか。南シナ海の軍事拠点化などへの言及も封印したようだ。

 首脳会談で関係改善がより一層進んだことは評価したいが、真の友好関係を築くには耳の痛い話は避けて通れない。今回はそのための一歩とすべきだろう。中国が覇権主義をやめ、まっとうな新興大国へ進むよう戦略的な働き掛けを行っていくべきだ。

 安倍首相は蜜月と自賛するトランプ氏とも、苦言を呈する間柄ではないとされる。米中両国の顔色をうかがうばかりが外交ではないはずだ。両大国をリードしていく役割を世界が日本に求めている。そんな気概を持つべきだ。

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