【論説】当面の政治課題への基本姿勢とはいえ総花の感が否めず、それぞれ内在する問題には一切触れない―。安倍晋三首相が臨時国会で行った所信表明演説にはそんな印象が拭えない。

 自民党総裁選で声高に提唱した憲法改正は末尾でわずかに触れただけ。残る3年で「やり遂げる」といった意気込みは見えない。今国会にも自民党の改憲案を提出するとしていたはずだ。連立を組む公明党のつれない対応に行き詰まっているのが現状だろう。

 消費税増税に関しても「あらゆる施策を総動員する」と、従来の主張を繰り返すにとどまった。これまで「リーマン・ショック級の出来事がない限り増税する」と説明してきたが、ここに来て、米中貿易摩擦の激化やイラン、サウジアラビア情勢などに伴い、世界同時株安の様相が強まっている。増税分の一部を幼児教育などに充てるとする首相は悩ましさを募らせていないか。

 臨時国会の焦点に浮上してきたのが、外国人労働者の受け入れ拡大に伴い新しい在留資格を設ける出入国管理法改正案。移民政策の解禁と受け取る与党議員からも性急な制度設計を危ぶむ声が出ている。首相は演説で「日本人と同等の報酬をしっかりと確保する」と確約したものの、安価な労働力としての実態がある技能実習生制度とどう整合性を図るのかも見えない。

 北朝鮮の拉致問題や、沖縄の辺野古新基地建設問題にも言及した。ただ「私自身が金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長と向き合わなければならない」「沖縄の皆さんの心に寄り添う」は国民の多くが聞き飽きたと感じているのではないか。両問題は同列には扱えないが、そうした文言がいつまでも繰り返されるようでは、首相のリーダーシップが問われる事態だということを自覚すべきだ。

 外交や貿易問題もしかり。「戦後日本外交の総決算」「自由貿易の旗手」をうたったが、結局は対米関係を追従一辺倒から、もの申す関係に変えられるかにかかる。核兵器や貿易摩擦など世界を引っかき回すトランプ米大統領をいかにいさめられるか。蜜月関係にあるならば、そこを国民は期待してやまない。だが、演説からはそうした気概は一向にうかがえない。

 総裁選で地方からの批判が高まったことを意識したのだろう、「強靱(きょうじん)な故郷づくり」「地方創生」に演説の多くを割いた。ただ、災害からの復旧復興は政府として当然の責務だし、創生の中身は1月の施政方針演説の域を超えるものではなかった。

 政権運営への批判に対しては、本格的な政党内閣を樹立した原敬の「常に民意の存するところを考察すべし」を引用。「長さゆえの慢心はないか」と投げ掛けた上で「その長さこそが、継続こそが、力である」と切り返した。演説では森友、加計学園や障害者雇用水増し問題には一切言及しなかった。都合の悪いことには目を背け続ける長期政権であってはならないはずだ。

関連記事