【越山若水】アテネ五輪で女子卓球の監督を務めた西村卓二さんは、福原愛さんについて「間違いなく天才」「卓球の神様が彼女を選んだ」と自著に書く▼一方、リオなどで女子を率いた村上恭和さんの著書には「身体能力は高くなく涙ぐましい努力で克服した」とある。対極の二つの印象。おそらくは、接した時期の違いから生まれた▼アテネの出場は史上最年少の15歳、リオはチーム最年長の27歳。この間、幾つか試練が訪れた。同学年日本選手に初の敗戦、フォーム改造、右肘の手術などである▼ただ、苦境を乗り越えて全日本選手権を連覇したのもこの時期。「国内で勝てない」との評を見事覆した。「卓球の愛ちゃん」と呼ばれた女の子は、努力によって日本を代表するアスリートになった▼聡明(そうめい)で気遣いの人である。海外大会のインタビューでは中国語の通訳を進んで務める姿が見られた。リオの時には、サポートに回っていた平野美宇選手を「一番頑張った」とねぎらっていた▼中国での人気も人柄にひかれてのことだったろう。日中関係がどんなにぎくしゃくした時期も愛され続けた日本人は彼女ぐらいでは▼引退は考え抜いた答えという。不思議と寂しさは湧かない。爽やかさすら感じる引き際である。折しも本人が理事を務めるTリーグがきのう開幕した。彼女が新たな立場でどんな活躍をするのか、楽しみである。

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