【論説】建設現場でアスベスト(石綿)を吸い込み、肺がんや中皮腫などを発症したとして元労働者や遺族が国と建材メーカーに損害賠償を求めた全国各地の訴訟で、国の責任を認める判決が相次ぎ出されている。原告となった700人を超える元労働者の7割は既に亡くなったとされる。国は「命あるうちの救済」を訴える原告の声に耳を傾け、早期救済にかじを切るべきだ。

 アスベストは建材や断熱材など幅広い用途に使われ、日本の高度経済成長を支えてきた。しかし壁などに吹き付けたり、建材を切断したりする中で、毛髪の5千分の1という極細繊維のこの鉱物を吸い込むと肺に突き刺さり、肺がんなどを引き起こす。原告に高齢者が多いのは、数十年という長い潜伏期間のためだ。

 その危険性は戦後、国際機関が指摘し、欧米各国は1980年代に規制を強化。日本は業界の抵抗などがあり、2006年にようやく全面禁止となった。製造が盛んだった大阪・泉南地域では中小・零細工場が多く、大半の工場が廃業していく中で、被害労働者らは国に賠償を求める以外に活路がなかった。14年の上告審判決で最高裁から初めて責任を指摘されて以降、国は和解という手順を取るなどし救済に動いてきた経緯がある。

 一方で、工場ではなく建設現場で働いた元労働者による訴訟は蚊帳の外に置かれてきた格好だ。12年の横浜地裁判決では国とメーカーへの請求をともに退け原告全面敗訴。だが、その後、東京や福岡などの各地裁で国に賠償を命じる判決が出されるようになった。

 メーカーの責任に関しては、労働者の多くがさまざまな現場で働いてきたため、建材メーカーの特定は困難とされてきたが、16年の京都地裁判決で初めて認定。それ以降、横浜地裁や東京高裁などの判決でも認められている。

 先月の大阪高裁判決では「国は遅くとも昭和50(1975)年には石綿関連疾患に罹患(りかん)する危険性を具体的に認識することができた」とし、マスク着用の義務付けといった規制をしなかったのは違法と判断。メーカーについても危険性を予見できたと断じた。

 3月の東京高裁判決では、労災法令の保護外にある「一人親方」という個人事業主についても国の責任を認め救済対象とするなど、今や国の責任に関する司法判断は固まったとみるべきだろう。国は争う姿勢をやめ、救済の道筋をつけることに全力を挙げるべきなのは明らかだ。メーカーなどと連携し補償基金制度の創設を急ぐ必要がある。

 再発防止も課題だ。労災認定は毎年千人以上おり、半数は建設労働者とされる。総務省の2016年の調査では、自治体が所有する施設でアスベスト対策を取っていない施設が291カ所あった。解体が始まった築地市場でもアスベストを使った古い建物が3割に上る。「静かな時限爆弾」と呼ばれるアスベストの被害者をこれ以上出さないよう対策の徹底を図るべきだ。

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