誰かに本を贈ったことがあるだろうか。「あげる」のではなく、「贈る」。本を贈るのには勇気がいる。自分の趣味や思想がはっきり表れるから。

 本書は執筆から編集、装丁、校正、印刷、製本、書店での選書、販売まで本づくりの各プロセスに、本を贈るように心を込めて携わる10人の文章を収めている。

 ほとんどが30代から40代。フリーランスか小さな会社を営み、それぞれ自らの歩みや日々の作業、仕事への思いを丁寧につづっている。

 彼らは目を凝らして見つめている。著者の記した文字を、本に挟まれている伝票を、書棚に並ぶ背表紙を、本を手に取るお客さんを。その気迫と誠意と覚悟がじわりと伝わってきて静かに心揺さぶられる。

 初版10部の文庫3タイトルが口コミで広がり、合わせて800部以上売れたという装丁家の経験談。師匠のもと原稿の間違い探しに奮闘した校正者の苦労話。本の出来に徹底的にこだわる印刷・製本の職人がほとんど本を読まないという裏話。それぞれ愉快で面白い。

 ひとつの作品として本をつくり、必要とする読み手に確実に送り届ける。出版不況の折、時代に逆行しているだろうか。いや、儲かりはしないが、おそらく出版の活路の一筋がここにある。少なくとも携わっている人間が生き生きして見える。

 本書は布張りハードカバーだが、とても軽い。隅々まで丁寧につくられ、奥付には印刷所や製本所の担当者名が全員記されている。本が好きな人に贈りたい。きっと喜んでくれる。

(三輪舎 1800円+税)=片岡義博

関連記事