【越山若水】ギリシャ神話に出てくる怪物キメラは顔がライオン、胴体にヤギの頭が生え、尾はヘビという姿。これほどの異形ではないが、キメラがつくり出されたことがある▼実験に使われたのはニワトリとウズラの受精卵だ。脳神経などが形づくられる途中に神経管の一部を入れ替えた。孵化(ふか)したニワトリは体が白、羽根は黒かった▼愛らしいヒナの寿命は短かった。2カ月もすると羽根はまひして垂れ下がり、食べることもできなくなって衰弱死した。なぜか。体内で何が起きていたのだろうか▼多田富雄著「免疫の意味論」(青土社)は、こう説明していた。生後数週間でニワトリの免疫系は、いったんは受け入れていたはずのウズラの細胞を突然、排除し始めたのだと▼免疫というのは一筋縄ではいかないのである。その複雑な世界で、鍵となるタンパク質を発見し、がんの新薬の開発に貢献したとして、本庶佑京都大特別教授がノーベル医学生理学賞に選ばれた▼免疫力を高める研究は、世の中にいくらもあった。そんな、いわばアクセルの方ではなく、本庶氏は免疫力をそぐブレーキ役を見つけた点が興味深い▼大切にしてきたのが「六つのC」だ。好奇心、勇気、挑戦、確信、集中、継続という英単語の頭文字である。きのうの会見では「こういう人生を二度やりたい」と語った。アクセル全開。まぶしい生き方である。

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