【越山若水】お江戸日本橋に三井家が創業した呉服店、越後屋は「現金掛け値なし」という分かりやすい売り方で大繁盛した。その歴史は現在の三越百貨店に引き継がれている▼もう一つ有名なのが、雨が降ったとき客に傘を貸し出すサービスだった。江戸っ子も「にわか雨ふるまひ傘を三井出し」と川柳に詠み、粋な計らいを称賛した▼ただし中には借りた傘を返さぬ連中もいたようだ。「ゑちごやのまへですぼめる傘をさし」。横着者でも店の前で見つかるとさすがに気まずい。そっと傘をたたむ▼それ以上に店側が手を焼いたのが万引である。「ごふくやの目あかし二かい住居なり」。反物を持ち出す悪党がいないか、中二階で目を凝らし厳しく対処した。「呉服屋でぶちのめされる万右衛門」▼世間を騒がせたあの男も万引防止の網に引っかかった。大阪府警富田林署から脱走した樋田淳也容疑者。行方をくらまし1カ月半、350キロも離れた山口県で御用となった▼自転車で各地を転々とする逃亡生活。空腹を万引でしのいだようだ。しかし一度は逃げおおせても、店員もカメラも至る所で監視の目を光らせている▼いくら身元を隠しても、髪形を丸刈りに変えて口ひげを伸ばしても、悪事を繰り返せばいずれ捕まり素性はばれる。警察の失態から始まった逃走劇は、何ともお粗末、食料品千円ばかりの万引で幕切れとなった。

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