【越山若水】池のカエルが演説している。「水は何のためにあるか。われわれカエルが泳ぐためにあるのである」。では虫は、草木は、太陽は、と問いを広げ、自分たちのために全宇宙はあると説く▼「神の御名(みな)は讃(ほ)むべきかな…」。創造主をたたえる言葉の途中のことだった。アシの陰からヘビが襲い、雄弁なカエルを食べてしまう。池の中は大騒ぎに▼2015年までの約半世紀に世界の湿地の35%が消滅したと、ラムサール条約の事務局が発表した。池も湿地のうちなので、引用してみたくなったのが先の寓話(ぐうわ)である▼芥川竜之介の「蛙(かえる)」だ。後半に考えどころがある。演説を聴いた若いカエルがまず疑問を唱える。全てが自分たちのためにあるというなら、ヘビもわれわれのためなのか、と▼答えたのは年寄りのカエルだ。ヘビが食わなければカエルは増える。増えれば池が狭くなる。だからヘビが食いに来るのだと。神の御名は讃むべきかな―▼頭が痛くなるような屁理屈(へりくつ)だが、ひとまずこれを正しいとしてみよう。ただしカエルの代わりに「人間のために全宇宙はある」と言ってみると?▼湿地もわれわれ人間のためにあるから、邪魔なら消そうとつぶそうと勝手。おかげで世界の人口は増えている。増えて地球が狭く暖まってきた。神の御名は…と言祝(ことほ)ぎたいが、途中、ヘビの代わりに何が襲ってきているか。顧みたい。

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