2人で散歩する磯野信雄さん(左)とチヨ子さん。「たくさんの人に支えられて今がある」と話す=7月、福井県福井市内

 結婚して58年、ともに聴覚障害のある磯野信雄さん(87)、チヨ子さん(88)夫婦=福井県福井市=は、手話と多くの人に支えられ人生を送ってきた。夜中に近くで火事があった時は、近所の人が知らせてくれた。入院した時は、手話通訳士が医師に説明してくれた。信雄さんが毎週開いている手話の学習会は「社会への恩返し」。人生を謳歌する夫婦の顔は明るい。

 ■デートを重ね

 2人は知人の紹介で知り合った。当時チヨ子さんは織物工場に勤めていた。信雄さんは「ちゃんと仕事をしていてしっかりしている人だと思った」。JR福井駅で待ち合わせ、映画を見たりした。西部劇は音が聞こえなくても面白かった。1960年、ともに30歳で結婚した。

 学生時代は太平洋戦争のまっただ中。勉強は手つかずだった。出会ったころ、チヨ子さんは字が読めず、手話もできなかった。信雄さんが丁寧に教えた。

 チヨ子さんは「夫には本当に感謝している」。信雄さんの大好物のぼたもちを月に一度は作っている。

 ■子はつくらず

 結婚から6年後、家を建てた。土木作業員だった信雄さんは、結婚を機に給料が高い工場勤めに。「とにかく経済的に困らないように、定年まで休まず働いた」

 子どもはつくらなかった。信雄さんは「親から『子どもが苦労する』と言われた。自分の考えが押し通せる時代ではなかった」。幼いころ、周囲にからかわれたり笑われたりした。いじめにも遭った。その経験もあり親の言葉を受け入れた。チヨ子さんは多くを語らず「深く悩まず乗り切ってきた」と笑顔を見せる。

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