若年性認知症の障害年金の受取額で、在職中の初診か退職後かの違いによって最大で2倍近い差になることがあり、福祉、医療関係者らの間で早期受診を勧めたり制度の改善を求めたりする声が上がっている。会社員の場合、在職中であれば障害基礎年金分を含めた障害厚生年金を受け取るのに対し、早期退職後であれば障害基礎年金のみになるため。在職中は症状に起因するさまざまな悩みを抱え込み受診しないケースがあり、福井県内の関係者らは「働き盛りでの退職で生活困窮に陥らないよう、早めの受診を」と呼び掛けている。

 障害年金は、病気やけがによって生活や仕事が制限されるようになった場合に受給できる。認知症も対象となる。日本年金機構福井年金事務所によると、認知症の症状で最初に病院にかかったときに国民年金に加入していれば障害基礎年金を、厚生年金に加入していれば障害厚生年金を請求できる。

 ただ、若年性認知症の場合、仕事でミスを繰り返すといった兆候を家族にも話さず、1人で悩みを抱え込み、診察を受けずに退職してしまうケースがある。

 福井市の県立すこやかシルバー病院の精神保健福祉士、山田育弥(いくみ)さん(42)は「特に男性は普段から家で口数が少なく、日常生活に支障はないため、変化に気付かないことがある」と話す。女性は家事やごみ出しなどの変化に、周囲が気付きやすいという。

 夫(2009年に死去)が若年性認知症で、診察を受けないまま52歳で退職したという福岡市の越智須美子さん(65)は、障害厚生年金分の月額約20万円を受給できなかった。夫は退職しても国民年金の被保険者だったので障害基礎年金は受け取れたが、在職中の受診での受給額に比べ半分程度という。

 越智さんは「夫は47歳で物忘れなどの症状が始まり、会社でもミスを繰り返した。私は認知症と気付かないまま、夫が精神的ストレスから解放されるならと退職に賛成した」。退職の半年前に家を購入しており、下の子どもがまだ中学生だったため、生活は苦しくなった。

 一般的に若年性認知症は最初は病気と気付きにくく、受診につながりにくい傾向がある。心理的状況によって、病院に行く余裕がないケースもあるという。越智さんは「夫は32年間、厚生年金保険料を払い続けてきたのに、初診の時期によって、夫の権利が奪われた」と5年前から、在職中の初診でなくても障害厚生年金の受給資格を認める請願の署名活動を展開している。署名数は今年7月までに全国で8万人を突破した。

 厚生労働省研究班の2014年度調査によると、就労経験がある若年性認知症の約8割は自ら退職したり、解雇されたりした。発症を境に世帯収入が「減った」のは約59%、家計が「とても苦しい」「やや苦しい」は計約40%だった。

 山田さんは「気になる症状があったら、会社を辞める前に相談、受診してほしい」と呼び掛けている。

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