◎小浜市・提案編

 京都からの北陸新幹線の車両が小浜駅に着いた。降りてくるのは、バカンスを楽しむためにやって来た大勢の外国人たち。リアス式海岸に沿うように、白鳥海岸を中心に立ち並ぶ海上コテージが宿泊場だ。コテージと陸地をガラス張りの海中トンネルがつなぐ。悠々と泳ぐ多種の天然の魚たちを見ることができ、まるで水族館のよう。小浜は世界でも注目されるリゾート地となった。

 かつて、京の食を支え「御食国(みけつくに)」と呼ばれた小浜。鯖街道で京都へサバを運んだ流れは今“逆流”し、京都から外国人を呼び込んでいる。北陸新幹線小浜駅には英語、フランス語、中国語、韓国語表記の案内看板が設置され、構内は多言語が飛び交う。改札には「ウェルカム御食国OBAMA」の横断幕。“御食国入国”を認める仮想パスポートが手渡される。

 食はバカンスの楽しみの一つ。今年から始まった養殖サバでもてなす。安心安全なサバは刺し身のほか、へしこで提供。岸辺の屋台からは、へしこを焼く香ばしい煙がたちこめる。

 白鳥海岸からほど近い国の重要伝統的建造物群保存地区(重伝建)に選定されている小浜西組。日本文化を感じることができる情緒ある空き家は、小浜で採れる海藻や薬草を使ったエステ店に。美を求める世界のセレブ女性が列をつくっている。

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 県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案する連載。第6回は小浜市編をお届けします。

 ◎小浜・根拠編

 「リゾート地」世界に発信 歴史と食で相乗効果

 木村さん「海上コテージ すごくいい」
 杉本さん「“御食国パスポート”外国人に渡したら」
 相澤さん「女性の視点大事 美と健康が鍵」

 小浜は室町時代に南蛮船が着き、日本で初めて象が上陸した地。海外との交易の要津として栄えてきた歴史を持つ。「御食国(みけつくに)小浜」の豊かな自然や世界的ブームになっている発酵食品のへしこもアピールし、古都・京都を訪れる外国人観光客を引きこむ。昨年1年間に小浜に宿泊した外国人は1619人にとどまっているが、今ある素材を最大限に生かせば、リゾート地化も現実味を帯びてくる。

 国土交通省水管理・国土保全局の昨年度版の海岸統計では、リアス式の小浜市の海岸線は延長約76キロに及び、県内の市町で最長。景勝地・蘇洞門は米ニュース専門局CNNの「世界で最も美しい場所31選」に選ばれた。昨年イタリアで開かれたミラノ国際博覧会(万博)に出展した同市のブースは盛況だった。米オバマ大統領と同名ということもあり、世界での認知度が高まりつつある。

 「世界中から人を集めて楽しみたい」との思いから昨年9月、小浜市内で民宿を始めた木村雅美さん(38)は、東南アジアのリゾート地、インドネシア・バリ島に30回以上訪れている。「海岸線に沿った海上コテージはすごくいい」と提案編の内容に賛同してくれた上で、食をキーワードに挙げる。「海岸には生きたおいしい魚を自由に選んで焼けるスペースを設けてはどうか。小浜産野菜のビュッフェがあってもいいね」

 一方、同市内の町家でカフェを営む杉本和範さん(37)は「関西圏の北欧」を目指すべきだと提案する。数年前に訪れた欧州のバカンス地フィンランドを例に「自然豊かで海もある。小浜に似ている」と指摘。さらに「異国気分を味わえるよう、小浜独自の“御食国パスポート”を作って渡すのもいいね」と想像を膨らませた。

 「女性が行きたいと思えるものがないと。やっぱり女性の視点が大事」。小浜市地域おこし協力隊の相澤弘美さん(39)がアドバイスをくれた。それで思い付いたのがエステ。いつまでも美しくいたいとの女性の願いをかなえる。小浜には人魚の肉を食べて800歳まで生きたという「八百比丘尼(はっぴゃくびくに)」の伝説があり、不老長寿をうたい文句にしたらどうだろう。

 小浜産ワカメなどの海藻や江戸時代の小浜藩医中川淳庵(じゅんなん)ゆかりの薬草をエステに使用すれば、地元の1次産業の活性化にもつながる。「おいしい食べ物ときれいな水。さらにエステ。体の内側も外側もきれいになれるなんて最高。究極のリゾート地になるんじゃないかな」と相澤さん。

 小浜は食のまちづくりを掲げ、市民ぐるみで食育や地産地消に力を入れているのも売りの一つ。専業農家で福井若者チャレンジクラブ会長の木村武史さん(35)は「食育や農業など、普段当たり前にやっていることを外国人に体験してもらう。市民にとっては日常でも外国人は非日常」。

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 ◎小浜・調査編

 北陸新幹線敦賀以西ルートが小浜・京都ルートで決まれば約20分で結ばれ、小浜にとって千載一遇のチャンス。インバウンド(訪日外国人客)の取り込みを目指す動きが県内外で活発化する中、小浜市も記者の着想と同様に「受け入れの基盤をつくり、京都に来ている外国人を呼び込みたい」と見据える。

 空想のまちづくり事業として提案した海上コテージと、陸地をつなぐ海中トンネルは実現できるのか。海岸などを管理する県嶺南振興局水産漁港課に聞いてみると、「夏の浜茶屋のように期間限定の仮設であれば可能性はゼロではない」。ただ、クリアしなければいけないハードルとして指摘したのが、漁業権の問題。同市沿岸の海域は市漁協が権利を所有しており、同意が必要となる。漁協側は「外国人のマナーの懸念はあるが、市の活性化になることであれば反対はしない」とする。

 リゾート地の中心エリアとした白鳥海岸の一帯は、漁船が航行し、沿岸に民家やホテルが立ち並ぶため「漁港区域」と「海岸保全区域」に指定されており、海上コテージの建設は難しい。加えて波が高く、コテージが壊れて漁船や浜辺に隣接する民家に被害が及ぶ可能性があることから、「県が許可を出す可能性は低い」(県嶺南振興局水産漁港課)とした。

 一方で、「現在、釣りいかだやいけすがあるような波が穏やかな場所であれば造ることはできる」と指摘。「海上コテージを釣りいかだの拡大版ととらえ、漁業者自ら建てれば全てクリアする」と“秘策”を教えてくれた。

 市は2015年度から、インバウンド施策を本格化している。JR小浜駅には現在、英語、韓国語、中国語の案内看板が設置されている。しかし、昨年1年間に市内に宿泊した外国人は1619人にとどまる。

 小浜市の沿岸部には51軒の民宿が点在する。ただ、民宿に宿泊した外国人はほぼゼロという。市内のホテルなどでは外国語に対応できる社員がいるものの、家族経営の民宿では対応し切れないとの課題がある。

 民宿での外国人受け入れを進めようと市は本年度、台湾人と欧米人にターゲットを絞り、本格調査を始めている。9月17、18の両日は、在日台湾人に小浜市内外海地区の民宿に宿泊してもらい、若狭塗箸研ぎ出し体験などを行うモニターツアーを実施する。来年1月には、同様のツアーをフランス人対象に行う予定だ。

 提案の中で実現可能性が高いのは、国の重要伝統的建造物群保存地区となっている小浜西組にある空き家を活用したエステ。約300軒の町家のうち30軒が空き家となっている。市商工観光課は「創業したい人がいればすぐにでもできる。景観保全の観点から外観さえ維持すれば、内装の変更は問題ない」とした。

 ■記者はこう見る 実現可能性30%

 「小浜の売りは何といっても海。おいしい魚もあるしね」。空想まちづくり事業を練り上げる中で取材した、小浜市民の誇らしげな表情が印象的だった。小浜の日常をブランド化する。肩肘張らずに、ありのままを見せるだけで外国人へのアピールになるはずだ。

 「北陸新幹線が『新・小浜』を生む起爆剤になる」と話す関係者は多い。今ある資源をさらに生かすためにも、市民一丸となって「おもてなし」の輪を広げる必要がある。

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 連載「空想まちづくり」小浜市編の感想、意見を募集しています。連載は福井新聞ホームページからもご覧になれます。福井新聞小浜支社=電話0770(52)3311、FAX0770(52)3312、メールはmachidukuri@fukuishimbun.co.jp

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