記者が考える私たちのまち

JR福井駅方面に延びる福井駅前電車通り。路面一帯に木を植えて森になったら…=福井市中央1丁目

前田浩貴さん

内田友紀さん

森岡咲子さん(中)

連載「空想まちづくり」の第1回を掲載したフェイスブックページ(中央)。さまざまな反応が寄せられた

 ◎福井・提案編

 JR福井駅から西口に出ると、目の前に現れるのは、森。家族連れが切り株のテーブルでランチを楽しみ、恐竜モニュメントの隣で子どもたちは木登り。ハンモックに揺られて読書をする人もいる。

 森は、西口広場からさらに延びている。駅前電車通りや中央大通りも樹木が植えられ、歩行者に開放された。靴底から伝わる土の感触。鳥のさえずり。木漏れ日が気持ちいい公共空間が広がる。

 木の上にはツリーハウスのカフェや宿。各ハウスはつり橋やターザンロープで行き来できる。さらにハウスからはビル2階にも空中通路が結ばれ、そこにも店舗が生まれた。まるで、まち全体が2階建てになったようだ。

 森に点在する小屋では、伝統工芸の若手職人がミニ工房を構え、生活用品や雑貨がお土産にも人気。毎日が「ものづくり福井」の見本市のような雰囲気だ。散策するたび違った発見があるのが楽しい。

 森をくぐって福井城址(じょうし)に入ると、そこは「新幹線を降りて5分」が売りの本格キャンプ場。県庁は駅東口のアオッサ内に移転した。お堀沿いには屋台が並び、福井市中央公園では音楽フェスも。将来は足羽川を越えて足羽山まで、森がつながる予定だ。

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 福井のまちって、こうなったらもっと楽しいはず—。ややこしい現実はひとまずおいて、自由に空想してみよう。県内9市の担当記者がまちの人たちと一緒にアイデアを膨らませ、空想のまちづくり事業として提案します。


 ◎福井・根拠編

 「県都の顔」に独自性

 森岡さん「ものづくりの魅力凝縮」
 前田さん「ビル2階にも動線を」
 内田さん「広場機能で人が集う」


 JR福井駅西口は、福井市の中心市街地の中でも、「県都の顔」とされるエリアだ。ただ、他県の駅前と同じような都市開発を進めても、福井の人口・経済規模では全国に抜きんでることはないだろうし、個性も生まれない。ならば、都市化の対極として、まちなかをあえて「森」にすることで独自性を際立たせようと空想してみた。

 「中途半端なことはせず、よそのまねをしないのが大事」。福井市内にゲストハウスを開いて県内の魅力を伝えている森岡咲子さん(30)も、そう話す。好例の一つが、西口広場にあった動く恐竜モニュメント。「駅前が完全にジュラシック・パーク」「知らずに下車したら腰抜かすレベル」とネット上で県外からも話題になった。

 「『福井ってどうしちゃったの?』って言われるようなことを貫くといい」と森岡さん。森になったまちを思い浮かべ、「『新幹線が最後にたどり着いた秘境の地』みたいになれそう」と笑った。

 子どもと安心して遊べる憩いの広場を—。そんなニーズは、市の第三セクターまちづくり福井の意識調査からも見て取れる。同社元社員で、市内の自宅でシェアスペース「かわら家」を運営する前田浩貴さん(29)は「森なら、みんな来そう。駅を降りて一歩目が土、って最高」。

 「大人の秘密基地」のようなツリーハウスを交えた“空中都市”は、前田さんのアイデア。ほとんど使われていないビルの2階以上のフロアにも動線ができることで、植えた木が空き店舗対策にもなる。「ビルと緑が共存しているイメージ」が広がる。

 森岡さんがさらに望むのは、ものづくりの要素が感じられる「福井のいいもの市」。越前焼や越前漆器、越前打刃物の産地には「本物の魅力がある」が、交通アクセスが少々不便。だから、職人や雑貨店の協力で「工房をパビリオンのように点在させて、駅前を凝縮した産地にしたい」。

 福井市出身で都市のイノベーション(新たな価値の創造)を研究・実践するシンクタンク経営の内田友紀さん(32)も「いっそ森になれば、絶対に気持ちいい場所になる」。中央に広場を持つ欧州の各都市を例に「広場機能があれば、多様な人が集まって新しいコトが生まれるはず」と想像を膨らませる。

 すぐ近くには足羽川、もう一足延ばせば足羽山。「せっかくの自然が駅側と断絶しているのはもったいない」と内田さん。森でエリアを一体化できれば、自然の地形も組み入れた新しい中心市街地になりそうだ。

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 ◎福井・調査編

 福井のまちが面白くなるアイデアを県内9市の担当記者が膨らませる連載「空想まちづくり」。先日の「提案編」「根拠編」(下記リンク)で紹介した空想を仮に実現させるとしたら、どんな壁があって、どうすればクリアできるのか。「調査編」として考察する。

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■民間運営 採算性がかぎ

 福井市について提案した空想は「JR福井駅西口を森にする」。森の歩行者空間にしたいエリアは、合計で約4万5千平方メートルある。西口広場や福井駅前電車通り、市道県庁線は福井市が管理する。中央大通りなどは県の所管だ。

 市道路課に空想をぶつけると、「道路を森にすることについて法令の解釈さえ成り立てば、運用上の判断で対応できる可能性はある」と意外にも? 前向きな答えが返ってきた。行政が土地利用のルールとして定める都市計画の上では、車道を歩行者専用道路に変更し、公園のように使う方法が考えられるという。

 地面を土に返すためアスファルトを撤去する大規模工事の費用は、同課の見立てを参考にすると1億数千万円。植樹も含めると整備費はもっと膨らむ。現実的には、まずエリアを小さく絞って始めるやり方かもしれない。

 整備は官に動いてもらうしかないとして、運営には民の力が必要だろう。ある市職員も「行政主導だと予算やスケジュールでがんじがらめになりがち。まちに愛着を持つ人たちに当事者意識で運営してもらうのが一番いい」。

 例えば、民間団体が市に使用料を払って森のエリアを運営。ツリーハウスや工房の出店料などで収益を上げ、維持管理費を賄う形だろうか。福井駅前五商店街連合活性化協議会の加藤幹夫会長は「居心地のいい空間なら自然と人が訪れ、店も集まる。税収にもつながるのでは」と受け止めた。樹木の命名権を販売し、管理費に充てる仕組みも考えられる。

 運営主体に浮かぶのは、市の第三セクターまちづくり福井。市の道路占用許可を得るのに有利な「都市再生推進法人」に指定されている。同社幹部に話すと「理屈の上では可能。ただ、コストに見合った事業収入が出るかどうか」と、採算性を課題に挙げた。

 福井城址(じょうし)を生かすための県庁舎移転は、2050年までの実現が県都デザイン戦略に明記されている。福井経済同友会は昨年3月、新栄商店街かいわいでの県庁と市役所両庁舎を統合した新庁舎建設を提言して県民議論を促した。ただ、県政策推進課によると「まだ具体的な検討に至っていない」段階だ。

 庁舎新築には巨額の公費を要する。仮にアオッサ内に移転するなら、その建設財源でおそらく数十年分の賃料を賄える。しかも県は既に床の一部を所有している。既存ストックの有効活用で、まち全体のコスト節約につながりそうだ。

■記者はこう見る 実現可能性35%

 各方面から意見をいただいた中には、「福井が持つオリジナリティーを踏まえていない」との指摘もあった。それでも、現実から飛躍した空想に一定の理解をもらえたのは、歴史や地域性に基づいた従来のまちづくり構想に対して閉塞(へいそく)感を抱いている人が多いからだろうか。運営や採算性の課題は、知恵を集めれば解決の道がありそう。ただ、まずは、政治の意思がないと公共空間の大胆な活用は望めそうにない。

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 「福井・調査編 JR福井駅西口を森にする」概要

 JR福井駅西口一帯の広場や道路を森にする。たくさんの樹木を植えた歩行者最優先の公共空間。木の上にはツリーハウスのカフェや宿があって、ハウス同士やビル2階を空中通路で結ぶ。森の中では伝統工芸の若手職人らがミニ工房を構え、雑貨や生活用品を販売。県庁は駅東口のアオッサ内に移転し、跡地の福井城址(じょうし)はキャンプ場に。将来的には足羽川、足羽山方面へと森を延ばし、駅西口と一体化した緑と憩いのエリアをつくる。(詳細は下記リンクより)

 【意見募集】

 連載「空想まちづくり」の感想、ご意見を募集しています。連載は福井新聞ホームページからもご覧になれます。社会部=電話0776(57)5110、FAX0776(57)5145、メールはmachidukuri@fukuishimbun.co.jp


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 ◎読者の声

 福井県内各地の本紙記者がまちの人と一緒に、福井が楽しくなるような空想のまちづくり事業を考える連載「空想まちづくり」。第1回の福井市では「JR福井駅西口を森にする」という空想を「提案編」「根拠編」(1月26日付)、「調査編」(同29日付)を通して紹介し、フェイスブック(FB)やメールなどでさまざまな反応が寄せられた。

 「福井駅西口がこうやって木の歩道橋でつながれるんやって。すごくいいなぁ、楽しみやなぁ」。興奮する小学生の娘を見て、大野市の田中奈美さん(39)はそれが空想の内容だということをあえて内緒にしたという。「ぜひぜひ実現させたいですね」

 幅広い年代から「こんな駅前なら行きたい」「夢がつまっていて福井らしい」「私もイラストを見ながら空想の街中を散歩しています」と関心が示された。FB上では「お堀を復活させたら面白い」「スケートパークがあるといい」と、読者各自が自由に描いた空想も飛び交った。

 「結局は『都会の人たちが田舎に求めるもの』なのでは」と疑問を呈し、雨や雪を防ぐ透明なチューブの回廊で建物をつないで空中庭園をつくる地元目線の“対案”を挙げた人もいた。

 一方で、「歩くのが好き」という越前市の70代女性は、高齢者の視点から地面を土にすることに賛同。「舗装された歩道は、体に負担を感じる上、冬は(雪や氷で)滑るのが怖くて外に出たくなくなる。身近な場所に土があると、歩きに行きたくなる」と話した。

 実現を目指す前提に立ち、▽イメージ通りに形にする仕組みを追求しないと、これまでのまちづくりの繰り返しになる▽地権者・商業者や議員から「抵抗」が起きるから、実行を認可する人たちを説得する人材が必要—と、シビアな指摘もあった。

 駅西口の道路を自然豊かな緑地空間に変えるアイデアは、さかのぼること約10年、福井市の建築デザイナーの丹尾実紀也さん(46)がすでに提唱していた。「目的がなくても歩きたくなるまちに」との思いで練り上げた「G−FACEプロジェクト」。整備費も試算して当時の市幹部らに持ちかけたが「時期尚早だったのか、聞く耳を持ってもらえなかった」。

 計画を知る同市の山下善久さん(44)は「僕も先輩たちも以前から叫んでいたことだが、形に変えられなかった。次世代が育って、まちを変革するまでになってほしい」と今後に期待を込めた。

 まちづくりの現場で「現実」に向き合う人たちは、「空想」という切り口に注目。ブータンに赴任中のJICA職員で、故郷の福井市でもまちづくり活動に取り組む高野翔さん(32)は「現状分析よりも空想から仮説を立てて行動することで、まちに対してポジティブになれそう」とメッセージを寄せた。

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