リノベーションのまちづくりの火付け役となった中屋ビルの「メルカート三番街」(左)。若い世代の起業・雇用の場となっている=11月6日、福岡県北九州市小倉北区のサンロード魚町商店街

 「建物の活用と雇用の創出を同じ次元で考えるべきだ」

 ことし2月に福井市内で講演した北九州市のまちづくり会社「北九州家守舎(やもりしゃ)」代表取締役で建築士の嶋田洋平(しまだようへい)さんは、リノベーション(新たな用途を前提にした建物改修)のまちづくりの極意をこう強調していた。

 11月上旬、北九州市小倉北区の中屋ビル内を歩いてみて、その意味がわかった気がした。空いた床を活用し、若いクリエイターの事務所やものづくり作家の工房が集まる拠点に再生。単なる建物の改修ではなく、そこにビジネスの場をつくることで、まちなかで過ごす人が増えている。

 継続して成り立つビジネスを追求し、行政からの一時的な家賃補助を当てにしないのも、北九州家守舎の特徴。取締役の徳田光弘(とくだみつひろ)・九州工業大准教授は「自治体の財政もひっ迫していくなか、地域の自立が必要だ」。民間主導のまちづくりを実践している。

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 それなら行政は、どうかかわっているのか。北九州市役所を訪ねると、サービス産業政策課の山本賢志(やまもとけんじ)主任は「リノベーションを政策に位置づけて後押しするのが、われわれの役割」と説明した。

 空き物件問題を抱えた市は、2010年度に「小倉家守構想」を定めた。その核となったのが、今ある物件を対象に受講者が事業計画をつくる「リノベーションスクール」。まちを再生するエンジンとなっている。

 そして計画の実現を担うのが、嶋田さんらが設立した北九州家守舎。過去7回のスクールで検討した計画41件のうち13件を事業化し、400人以上の新規事業者・被雇用者をまちに呼び込んだ。

 民間が自立していけば行政の役割は狭まっていくが、山本主任は「法令関係などの支援を続け、今後は市内のほかの地域にも動きを広げたい」と意欲的だ。

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 一連の動きの出発点となった中屋ビル。オーナーの梯輝元(かけはし・てるもと)さん(55)は初め、建て替えも考えていた。しかし「リスクを抑えながらまちの将来に貢献できる」とリノベーションを選択して改修費を投じた。「生まれ育ったまちは長く続いてほしいもの。だったら、建物のオーナーはまちづくりの当事者であるべきでしょ」

 民間と行政が歯車をかみ合わせながら進む北九州市のリノベーションのまちづくり。取り組みは、静岡県熱海市や和歌山市、鳥取市など各地に広がっている。

 「地域ごとにやり方は違うだろうけれど、福井でもやれますよ」。徳田さんからは力強い一言をもらったが、条件が付いていた。「ただし、産官学民それぞれの分野で、『自分自身がやる』と決断する人がいなければならない」(細川善弘)=第5章おわり

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