シェアハウス「かわら家」の一般開放スペースで語り合う前田浩貴さん(右)と高木克昭さん=福井市日之出2丁目

「美のまちプロジェクト」に参加する出店者と空き店舗前で話し合う竹本祐司さん(右)=福井市中央1丁目のサンロード北の庄商店街

「BENICHU」(手前2種類)など梅酒のPRでクラウドファンディングに挑戦したエコファームみかたの藤本佳志さん=福井県若狭町鳥浜の同社

 シェアハウスとして借りた市街地の木造住宅を一般開放し始めた若者ペア。クラウドファンディングで特産品を全国に発信した農業生産法人の営業マン。空き店舗が目立つ商店街では、統一したテーマで出店者を集めてイメージを一新しようという計画が持ち上がった。地域や人とのかかわり方に変化を求め、一歩を踏み出した仕掛け人たち。福井県内のまちづくりの新たな動きを見つめた。(細川善弘)

 ■シェアハウス「かわら家」 自宅開放、交流空間に

 JR福井駅から徒歩5分、福井市日之出2丁目にある築40年超の木造2階建て住宅。友人同士の会社員前田浩貴さん(28)と中学校教諭高木克昭さん(26)が、6月から共同生活を送るシェアハウスだ。「どうせなら、いろんな人が集まれる場所にしよう」。土・日曜・祝日はプライベート空間の一角を地域に開放し、市民の交流スペースとして使ってもらおうと決めた。

 開放するのは、食事や読書をして普段過ごしている1階の和室8畳とサンルーム。越前和紙のカーテンや間接照明でしつらえたこだわりの空間だ。家主が瓦職人で、足羽川河川敷の近くにあるからと、その住まいを「かわら家」と命名。フェイスブックで日々の出来事を発信しながら、ワークショップや会合に活用したい人を受け付け始めた。

 前田さんはもともと、休日にイベントやサイクリングへ出掛け、人と触れ合うのが好き。福井市内で一人暮らしをしていたが、「自分にない知識を普段から共有できそう」とシェアハウスの生活を選んだ。職場のある勝山市からあえて移住した高木さんも「2人で住んだ方が刺激がある」と直感した。

 その延長で、知識や刺激をシェアする範囲を少しだけ広げてみようというのが、自宅開放の発想だ。「空間だけでなく、出来事をシェアする場にしたい。家に居ながらにして、いろんな体験ができるなんて最高じゃないですか」。前田さん自身も、どんな風に利用されていくのか楽しみにしている。

 ■美のまちプロジェクト 空き店舗で一斉開業

 空き店舗が多いから人通りが生まれない。人が少ないからますます出店の動きが出てこない。JR福井駅西口の商店街が陥っている“負のスパイラル”を抜け出すには―。福井市のまちなかで若者向けイベントを手掛けてきた自動車運転代行業の竹本祐司さん(31)=福井市=がたどり着いた答えが「美のまちプロジェクト」だった。

 エステ、リラクゼーション、整体、フィットネス…。美容にまつわる出店者20人以上を集め、サンロード北の庄商店街や新栄商店街の空き店舗に入居。来年3月に同時開業して、一帯を「美のまち」として打ち出す計画だ。「空き店舗がじわじわと埋まっても変化は起きにくい。一気に出店すれば注目が集まり、人の流れが生まれるはず」

 発想の原点は、竹本さん自身が企画した商店街での美容体験イベント。参加した個人経営者から「出店者が集まることで相乗効果があった」と聞いた。女性たちが「美」を目的に散策するようになれば、「新規の顧客を開拓しづらい」という業界特有の悩みにも応えられると考えている。

 「おしゃれを楽しめて、人と出会えるという商店街ならではの良さを大事にしたい」と竹本さん。インパクトのある構想に、福井市の第三セクターまちづくり福井や地元商店街も協力。出店者の加盟母体となる事業団体を設立する予定で、定期イベント開催などオープン後の仕掛けにも思いを巡らせている。

 ■クラウドファンディング 資金集めがPR直結

 若狭町の農業生産法人エコファームみかたが今年商品化した梅酒「BENICHU(ベニチュー)38。」。全国でもまれな無糖仕上げの“大人の味”が売りで、梅産地を広くPRする商品との期待を担っていた。「大手メーカーが無糖梅酒を造り始める前に一気に全国に広めたい」。営業部の藤本佳志(よしゆき)さん(36)の挑戦は、そんな思いから始まった。

 梅酒大使にタレントを起用、梅酒好きの女性を取り上げた冊子を発行し、東京や大阪で試飲会を開く―。そんなプロジェクトを立ち上げ、インターネットで不特定多数の支援者から出資を募るクラウドファンディングに応募。計100人から目標額を上回る113万2千円を集めた。

 地元の知人にはあえて頼らず、町外に支援を求めた。東京県人会の会合に出向いたり、大手百貨店の物産展でチラシを配ったり。結局、出資者の半数を首都圏在住者が占めた。「今まで通りの営業では届かなかった層にアピールできた」と藤本さん。狙い通り、資金集めの活動そのものが何よりのPRにつながった。

 日本海側最大の梅産地とされる若狭町だが、1千トン前後の年間収穫量は全国からみるとわずか数%。農家の高齢化による将来の収穫減も、藤本さんの心配の種だ。「梅酒製品をPRすることが、青梅の消費を増やして産地を守っていくことにつながる。いずれは、三方五湖の自然に恵まれた観光地として注目を集めていきたい」

 【企画班ノート】「楽しむ」「稼ぐ」理想形

 「ただ住んでいるだけなんですけど、いいんですかね…?」。シェアハウスのスペース開放を始めた前田さんに取材を申し込むと、こんな反応が返ってきた。

 「全然違う職業や価値観の人と出会いたい」「近所の人にも集まってもらえたら」。人がつながってコミュニティーが生まれる仕掛けは、いわばまちづくりの王道。だが、実際は「自分たちが楽しみたくてやってるだけ。あくまで、住むのが優先です」。いい意味の“ゆるさ”がそこにはある。

 「美のまちプロジェクト」を仕掛ける竹本さんは「これは、まちづくりじゃなくて、ビジネスなんです」と言い切る。空き店舗が埋まったところで、商売として成り立たないと効果は続かないという意味だ。

 「出店者が自ら集客策を考え、独り立ちしてほしい」。竹本さんのそんな思いを受けてか、出店を決めた若手経営者の一人は「お客を紹介し合うことができるし、広告も共同で出せる」と、参加のメリットを冷静に分析する。

 まちづくり活動というと、自分たちの企画班も初めはそうだったが、社会のため公共のためという発想になりがち。でも実は、楽しみたいから、稼ぎたいからという個人的な思いに根差した動きにこそ、本当の力強さがあるのかもしれない。動機が率直で明確だから、無理なく続く。

 当の本人たちが「まちづくり」を意識しないまま始めた活動に触れ、理想的な「まちづくり」の在り方を見た気がした。(細川)

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