新山さん(左)から見せてもらった1本の動画。めちゃくちゃ、かっこいい=福井県鯖江市河和田町

 1本の動画にくぎ付けになった。

 舞台は北欧。緑豊かな農園の一角に、高級レストランのようにしつらえられたテーブル。一見、料理教室のようだが、参加者は野山や海辺で食材の野草を摘んだり、小さな貝を集めたり。最後はキャンドルの明かりで、のんびり夕食を楽しんでいる。

 何だこれ。めちゃくちゃ、かっこいい。

 4月上旬、動画を紹介してくれた福井県鯖江市河和田地区のものづくりグループ「TSUGI(ツギ)」の新山直広さん(28)が言った。

 「都会では無理だけど、福井だったらできますよね」

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 動画は、ノルウェーのシェフや編集者らでつくる団体「フードスタジオ」(http://foodstudio.no/)のイベント風景だ。団体の哲学は「サスティナブル(持続可能)な生活」。世界に共通する大切なキーワードを、見事なまでにスタイリッシュに表現している。

 私たち記者が挑んでいるのは、福井の食や伝統工芸の魅力を詰めこんだレストランづくり。そのためにはまず、県内各地を訪ねて地域の魅力を肌身に感じることが肝心。だが、どう具体的にアプローチしたらいいのか、糸口が見えていなかった。

 福井版フードスタジオをやってみよう。地域の魅力を知るどころか、都会がうらやむ福井を発信できるかもしれない。

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 記者によるレストランは期間限定にならざるを得ない。でも、一過性の取り組みには終わらせたくない―。別の悩みを抱えていた細川記者もヒントを拾ってきた。

 「野天や公民館でもいい。各地でレストランを開いてみては」。福井市のまちづくり団体「きちづくり福井会社」の建築士丸山晴之さん(42)の助言だ。企画班が地域に入りこみ、地元の生産者グループなどと一緒に臨時レストランを開く。新たな動きを呼び起こし、その後は地域で継続的に取り組んでもらう。それなら広がりができる。

 何の巡り合わせか、2人が同じタイミングで「地域を巡る企画案」を持ち帰った。山口デスクも土生記者も乗り気になってくれた。

 イベント名は「ふくいフードキャラバン」に決まった。本家のフードスタジオよりも地域を歩く趣旨がよく伝わる。新山さんのアイデアだ。企画班としての仕掛けが始まった。

  ×  ×  ×

 「ふくいフードキャラバン」の第1弾は、福井市越廼地区で開催―。会場がすんなり決まったのは企画班のアドバイザー佐々木京美(ささききよみ)さん(54)=鯖江市=の推薦があったおかげだ。

 越廼漁協の加工部には“浜のおばちゃん”たちでつくる「ぬかちゃんグループ」がある。料理研究家の佐々木さんは、その新商品開発を支援し、互いに気心の知れた仲。一緒にイベントを企画するのにうってつけだ。しかも、この時期は越廼自慢のスルメイカが旬。ますます、ぴったり。

 早速、越廼漁協を訪ねた。参事の林茂さん(58)は、こちらの意図を察して快諾してくれた。おまけに「会場は海水浴場そばの緑地がいい」「漁船で夕日クルーズをやってはどうか」と、うれしいアイデアも。越廼の魚のおいしさをもっと発信したいという強い思いが、ひしひしと伝わってきた。しっかり応えねば…。

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 募集するお客さんは15~20人で調理も食事も海辺でしたい。メーンの食材はスルメイカ。その料理をおしゃれな空間で提供する。浜の伝統食を守るおばちゃんたちの知恵や人柄、漁業の実情を紹介する時間も設けたい。

 もてなす料理とテーブルコーディネートは佐々木さんにお願いし、大枠を何とか固めた。

 予算は取材費として会社から10万円。越廼漁協からも支援を得られることになった。ただ、参加費は千円と“弱気”な設定をしたのがたたり、あまり余裕がない。初めてイベントを企画する、これが素人の悲しさ。

 結局、椅子15脚は福井市のカフェ「フラットキッチン」から、テーブル3台は「TSUGI」から借りることにした。調理に使う大型バーベキューコンロは、福井市の田安鉄工さんから無償で。いずれも、これまでの連載で得たご縁が生きた。人のありがたさをこんなに実感したことはない。

 決行は6月5日。当日のスケジュール表を作成し、会場設営の段取りや企画班メンバーたちの役割も決めた。それでも不安。何か抜けているんじゃないか、と。

 そして最後の最後に、最大の懸案が控えていた。当日の天気予報は雨。1日5回、やきもきしながら週間予報をチェックする生活が続いた。(高島健)

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