コーヒーが注がれたカップを何度も見つめる。伝統が持つ底力を肌で感じながら=福井県鯖江市西袋町の土直漆器

 「さあ、どうぞ」と差し出されたコーヒーは、黒塗りのカップの中で湯気を上げていた。

 漆をどれほど塗り重ねれば、この色を表現できるのか。シロウト目には「高そう」ということしか分からない。

 それに、越前漆器にコーヒーとは。こんな組み合わせ、あり? なんて懐の広い器なんだろう。

 カップには持ち手がない。でも全然熱くない。熱を通しにくいという木製の器ならではの特性を、カップは静かに伝える。漆の口当たりも優しい。

 レストラン計画を練った“居酒屋会議”で「福井の伝統工芸品を使ったらどうか」と言ってはみた。でも実は、漆器がどんな特性を持つのかもよく分かっていない。

 だから一から教えを請おうと伺ったら「まあ、まずはカップを取って」と越前漆器協同組合理事長の土田直さん(75)=鯖江市。言葉の真意を、ようやくのみ込めた。

 だが土田さんは言う。「景気が悪化し、職人も減った。今は高い物が売れる時代ではない。地道にやるしかない」。こんなにも優しく温かみを伝える器なのに―。

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 越前焼の館(越前町)を訪ねると、食器とともに昔ながらの水がめが売られていた。

 試しにと、水がめの水を飲んだ。塩素の匂いがない。それにまろやか。鉄分が多い越前焼の土には、水の浄化作用があることを初めて知った。この水がめの水でもし、レストランのご飯を炊いたら―。

 だけど「水がめや高級品に頼っていたため、時代に置いていかれた」。越前焼工業協同組合理事長の司辻光男さん(65)=同町=は、産地の存続が危ぶまれた過去を、こう振り返った。

 「僕たち職人は新しい風を求めている。作る側も勉強せなあかん。若い子の意見も取り入れたい」

 即売コーナーで目に付いた、水玉や花柄のかわいらしい食器は、産地の単なる「挑戦」ではなかった。切実なまでの「危機感」の表れだったのか。

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 5年前に鯖江市河和田町の民家で取材した80代の女性を思い出した。丁寧に磨かれた朱塗りの越前漆器で、食事を頂いた。「いい食器も、棚にしまったままなら、なーんも、意味ないんやざ」と明るく笑っていた。

 越前漆器も越前焼も「いいもの」と、誰でも知っている。だけど使わなければ意味がない。

 だったら、レストランで出す料理を福井の器に載せてみよう。やみくもに走ってきた中でうっすらと、私たちのプロジェクトの意義を見いだせた。  (土生仁巳)

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