朝日が昇り、街並みを照らす。さあ、まちづくりに動きだそう=福井市中央1丁目(田川義信撮影)

“居酒屋会議”で突拍子もないアイデアが生まれた。だんだんイメージが膨らんだ=福井市内(柿木孝介撮影)

 福井のまちって、好きですか?

 家族や仲間がいるから好き。生まれ育った場所だから好き。遊べるところがなくて嫌…。いろんな人がいる。でも「多くの人が福井のまちを好きになれるように」。そんな姿勢で記事を書くのが、福井新聞記者としてまちづくりに貢献することだと信じている。

 あれは、市民がまちのあり方を話し合う会合でのことだった。「記者さんもどうぞ議論に加わって」と誘われた。取材に来たんだからと遠慮すると、なぜ? と不思議がられた。だって、記者ってそういうもんでしょ。行政や住民の声を冷静に聞き、時には第三者として意見を書かせてもらう。それには一歩引いた立ち位置じゃないと…。

 ■■■

 「福井のまちの未来を描け」

 記者3人とデスク1人のまちづくり企画班が集められたのは昨年6月。編集局幹部から壮大なテーマが与えられた。

 北陸新幹線が来春に金沢まで延びて、福井県は北陸の中で取り残されてしまわないか。県内の人口は2040年には63万人に減る。明るい未来って福井にあるんだろうか。まちづくりに精通した県職員との勉強会を重ね、企画案を作っては上司に突き返された。

 光が見えそうで見えない。そんな焦りのなかで、ある市民団体代表の言葉をふと思いだした。

 「評論家はもういらない」

 その場は「確かにそうですね」と人ごとのように応じた。でもひょっとするとあの言葉は、記者自身にも向けられていたんじゃないのか。

 まちづくりの議論はこれまでにも、さんざん行われてきた。県や市町の担当部課には、その結晶のような計画書がいくつも残されている。あとは住民が動きだすだけ。必要なのは行動。そして、記者だって住民の一人じゃないか。

 自分自身にはめていた記者の枠をいったん取っ払い、自らまちづくりの実践に乗り出すというのはどうだろう。それを紙面で報告する。「まちは自分たちでつくるもの」というメッセージを込めて―。

 ■■■

 企画の基本的な考え方は決まった。問題は、具体的に何をすれば、まちづくりにつながるのかだ。4人で思案を重ね、はたから見れば突拍子もないはずの案を上司にぶつけたら、“まさか”のゴーサインが出た。

 ただし「ちゃんと楽しんでやるように」という注文付き。「記者が楽しんでなければ、誰もまちづくりをしようなんて思わないから」。それは、もちろん。言われずとも分かってますけど、まだそこまで行ってませんって。なんせ、すべてが手探りなんですから。

 ■■■

 福井らしいプロジェクトを考えたい。その思いがぐるぐる巡るだけで、具体的なアイデアが浮かんでこない。

 行き詰まり感が昨秋からずっと続いていた。正月休みも明けた1月6日。たまりかねて山口デスクに持ちかけた。「楽しいことは飲みながら話しましょう」。その日の仕事を片付け、企画班4人で居酒屋へ。酔いが回ってきたころ、高島記者がつぶやいた。

 「こうなったら、レストランでもつくっちゃいますか」

 ■■■

 「だって福井の魅力って、やっぱり『食』でしょ」

 それは確かに。越前がに、コシヒカリ、若狭かれい…と、本県は全国に誇れる食材の宝庫だ。とある取材で「敦賀昆布」を使ったタイの酒蒸しを試食させてもらい、素材を生かすだしの力にも感心した。嶺南では「ニシンずし」作りを取材し、家庭に受け継がれる伝統の味に触れた。

 こんなに豊かな食文化を再認識してもらう社会実験としてのレストラン―。“居酒屋会議”に火が付いた。

 「農家や漁師さんらと一緒に最高のメニューを考えよう」と提案すると、土生記者も「食器は越前焼や越前漆器で。伝統工芸の職人さんとも力を合わせて」と勢いづいた。担い手同士をつなぐことで食文化に磨きをかけ、福井ならではの楽しみ方として提案する。いいかも。

 すると、山口デスクが目の前の刺し身をつまんで「外食の魚はほとんど県外産らしいよ」。優れた食材が地元で消費されない現実。地産地消にこだわりながら地域経済を潤すようなモデルを示せたら、まちづくりとしての意義も深まるのではないか。だんだんとイメージが膨らんできた。

 ■■■

 開業に必要な資金はどうするのか。会社に頼るのでは、一住民としてのまちづくり活動とは言えない。でも、企画班にはお手本となる心強い味方がいた。

 国際協力機構(JICA)職員の高野翔さん(30)=福井市出身=は、人の魅力にスポットを当てた観光ガイド本「福井人」の製作を仲間とともにやってのけた青年だ。資金はあえて行政の補助金に頼らず、インターネットで全国の支援者から出資を募るクラウドファンディングサービスを活用。3カ月で290人から171万4千円を集めた。

 「出資者側にも参加意識が芽生え、一緒に本を作っている感覚を共有できた」と高野さん。「人と人とのつながり」が生まれていくのを肌で感じたという。うらやましい体験だ。

 やる気さえあれば、アイデアは実現できるものなんだ。背中を押された気がした。賛同者を探しながら、資金集めから店舗探し、メニューづくりまで手掛ける―。今秋のオープンを目指し、4人の奮闘が始まった。(細川善弘)

関連記事