生徒指導ハンドブックを手に持ち「家庭、地域、学校が一体となった教育が重要」と訴える門川大作市長=1月17日、京都市役所

 「子どもの学力を低下させ、反社会的にさせるのは簡単。家庭や地域が、子どもの前で、学校や先生の悪口を言えばいい」。京都市の門川大作市長(67)は言う。

 1969年、高卒で京都市教委事務局に採用され、翌年から立命館大二部法学部に通った。長年同事務局に勤め、2001年から07年までは市教育長、08年に市長に就いた。教育行政手腕を評価され、現在は文部科学省中央教育審議会臨時委員などを務める。

 同市は98年、授業参観を「自由参観」とした。保護者だけでなく地域住民も含め、誰でも見学できる仕組みだ。毎週1日設けたり、1週間続けて行ったりする学校もあった。

 しかし01年、大阪教育大付属池田小で8人が亡くなる事件があった。犯人は外部からの侵入者だった。それでも自由参観を止めなかった。門川市長は「学校での学びと、家庭・社会での生活の乖離は大きな問題だった。開かれた学校づくりは継続すべきと考えた」と振り返る。

 現場の抵抗はあったが、地域の人が「先生って大変やな。私らも応援せんとあかんな」と言ってくれるようになった。門川市長は「住民の意識が参観から参画へと変化した」と話す。

 自由参観は学校の実情に合わせながら現在も続く。学校評議員制度、学校運営協議会など、地域ぐるみで学校を支える取り組みは広がりを見せている。

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 「子どもの命を守りきる」。同教委が掲げる学校運営の第一の柱だ。12年に、同市内の小学校のプールで女児が亡くなったときの検証では、事故当時にプールにいた69人の児童を募り、潜る練習や鬼ごっこなどを忠実に再現。指導に当たった教諭や担任も立ち会い、事故の原因究明にあたった。

 指導法の共有も強化している。15年には「生徒指導ハンドブック」を作製。昭和の時代から受け継がれてきた手引書をより具体的にしたもので、教員に配布した。担当者は「多くの教員が定年退職し、若い教員が増える中、教員から教員へのノウハウの口伝えだけに頼っていてもだめという危機感があった」と話す。

 「問題行動への対応」という項目では▽暴力▽恐喝▽わいせつ▽かけごと▽喫煙・飲酒▽自殺―など、細かくケースを分けて、初期対応や事実確認、校内体制、子どもへの対応などを明記している。

 ほかに「性に関する諸課題について」という冊子や、登校支援ハンドブックなどもあり、担当者は「自分の指導を確認するエビデンス(根拠)を持つことで、スキルアップにつながる」と指摘する。

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 同市の中学生を対象にした職業、ボランティア体験は2000年から続く。不登校の生徒が老人ホームでの活動に参加した。あるおばあちゃんに「ありがとう」と言われ、誰かの役に立てることを知った生徒は、学校に行くようになった。

 門川市長は「学校と地域が協力して教育することで、子どもたちの『生きる力』でなく『生き合う力』を育てることができる。学力向上は否定しないが、子どもが30歳(大人)になったときの姿を思い浮かべながら育てるという意識が大切」と話す。

 子どもは社会を映し出す鏡。だからこそ「家庭、地域、学校が、互いの欠点を補い合いながら教育を進めていくべき。批判だけし合っていても何も生まれない」。教育行政に長くかかわってきた市長が思い描く教育の形だ。

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