大学ではそれなりにキャンパスライフを楽しんでいる。文科系のサークルに入り、彼女もできた。一方で「おカネ」という足かせから解放されることはない。

平日は塾講師のアルバイト、週末のどちらかは派遣の仕事を入れている。時間配分は「学業3、仕事7といったところでしょうか」。塾講師の仕事は毎月60時間以上拘束されるというから、少しは貯金ができるのかと思いきや、給料は6万円に届かないという。待機時間は無給扱いにされるためで、時給換算すると最低賃金を下回る。私が憤ると、「僕の職場はまだまし。部屋の掃除や、授業の予行演習が義務づけられているのにタダ働きというところもあります。塾講師は“ブラックバイト”のひとつです」と説明された。

こまごまとした節約は日常の光景である。授業は高額な教科書指定のない科目を選ぶ。サークルやゼミの遠方での合宿は基本、参加しない。書籍はアマゾンで中古を買う。移動は2駅、3駅分の距離なら歩くのが当たり前。歯の詰め物が取れたときはボンドで付け直した。ガス代を抑えるために、食事は夕方のスーパーで値引きされた総菜が中心だ。

彼女とも結局は「おカネ」のせいで別れることになった。

「学生同士なのでデートは割り勘でした。社交的な子で、あちこちのイベントや会合に誘ってくれたんですが、僕はおカネが続かなくて。でも、おカネがないとも言えなくて“用事がある”と言って断ることもありました。そんなことが続き、彼女に“嫌われているのかな”と思わせてしまったみたいです。お互いに悪い感情なんて全然なかったのに……」

■消えない「母親への罪悪感」

東京暮らしを始めて1年半。

制約はあるが、さまざまな経験を積み、多くの人と出会い、成長できたとも感じている。同時に、その反動のように最近、母親への罪悪感がどうしようもなく募るのだという。

母親のことを「自分がいちばん迷惑をかけてきた人」だと、タクマさんは言う。「“なんでそんなにおカネがないの”とか、“こんなことになったのはおカネがないせいだ”とか。子どもとはいえ、言っても仕方がないことを言って傷つけてきました」。

現在、2人のやり取りは1週間に1回のライン。母親が仕事のストレスや日々の暮らしぶりなどを割と赤裸々につづってくるのに対し、タクマさんの返信はたいてい1、2行だ。そっけなさとは裏腹に「僕がいなくなってから、ちゃんとした食事を取ってないみたいなんです。仕事も車での移動が多いみたいだし……」と心配する。