【論説】広島はきょう、77年目の「原爆の日」。長崎は9日に鎮魂の祈りに包まれる。ただ、今年ほど核廃絶を願う被爆者や関係者にとってその思いを打ち砕くかのような年はないだろう。ウクライナに侵攻したロシアのプーチン大統領があろうことか、開戦直後に核部隊の警戒態勢を引き上げ、核のどう喝を繰り返してきた。原発への攻撃も厳しく指弾されなければならない。

 そんな中、ニューヨークの国連本部で核拡散防止条約(NPT)の再検討会議が開かれている。191カ国が加盟する国際的な核秩序の「礎石」ともいえる条約だ。一方で、核兵器がより多くの国に拡散するような事態を恐れた米国と当時のソ連が中心となってとりまとめられ、米ソ英仏中の5カ国のみに核保有を認めた不平等条約でもある。

 それゆえ核保有国には核軍縮交渉を行う義務が課せられ、非保有国には原発などの民生利用を認め促進してきた経緯がある。だが、ロシアの蛮行により、重大な試練を迎えている。ウクライナという非保有国に対して、核の威嚇を背景としたむき出しの暴力に訴え、主権を踏みにじる暴挙は、半世紀以上の歴史を持つNPT体制を根幹から揺るがす事態に陥っている。

 唯一の被爆国である日本は「核の悪循環」を反転させるべく、保有国と非保有国の「橋渡し役」としての存在意義は大きい。その意味では岸田文雄首相が日本の首相として再検討会議に初めて出席し演説したことは評価できるだろう。核兵器不使用の継続など5本柱の行動計画を提唱し「長崎を最後の被爆地に」などと呼び掛けた。

 ただ、被爆者の評価は厳しいようだ。カナダ在住の被爆者サーロー節子さんは「きれいな言葉を並べただけ」「核廃絶を唱えながら、米国の核抑止力に頼っているという日本の矛盾について説明されていない」などと指摘。今年6月に初の締約国会議が開かれた核兵器禁止条約への言及がなかったことで「首相は広島選出だが、被爆者の願いをどこまで真剣に考えているのか」と疑問視する声も上がった。首相には「どこの国のトップか」などと言われないためにも一歩踏み込んだ姿勢が求められよう。

 国内では原爆投下後に放射性物質を含む灰や雨などを浴びた「黒い雨」の被爆者を巡って、新しい援護制度が今年4月にスタートしたが、審査が遅れ、その間にも高齢の被爆体験者が亡くなっているという。長崎の黒い雨体験者は客観的な記録がないなどとして対象外のままだ。首相はこうした現実にも目を向けなければならない。被爆者の声に耳を傾けることこそが「核なき世界」実現への一歩だと再度自覚すべきだろう。