方言の独自性と多様性が考察された「福井県嶺北方言のアクセント研究」

 方言の調査研究に取り組む金沢大学人間社会研究域客員研究員の松倉昂平さん(30)=福井県坂井市出身、東京都在住=が、福井県の嶺北方言のアクセントの独自性と集落ごとの多様性を考察した研究書を発刊した。「三型(さんけい)」と呼ばれる極めて珍しいタイプのアクセントが沿岸部の漁村に集中分布。集落によってアクセントの違いが微妙で、同音異義語の聞き分けが難しいほどだという。

 松倉さんは福井県立藤島高校を卒業後、東京大学文学部と同大学大学院で言語学を学び、博士号を取得。日本学術振興会の特別研究員も務める。

 嶺北方言のフィールド調査は2013年、卒業研究として始めた。9年かけて106集落を訪ね歩き、お年寄りから聞き取りを重ねたところ、沿岸部を中心に「N型アクセント」の方言が多数確認された。

 単語の中の特定の文字を強く発音する日本語の共通語や英語の“強弱アクセント”とは異なり、N型は単語の中における声の高さ(声調)の変化を聞き分ける“声の高低アクセント”。中国語やタイ語に近く、琉球諸語と九州、隠岐諸島、福井県にしかない。

 N型のうち、声の高さが「上昇」「下降」「平たん」といった具合に3パターンあるのが「三型」。2パターンが「二型」。特に三型は琉球諸語と隠岐、福井県にしかない。

 越前町小樟の方言が県内における三型の事例として既に確認されていたが、松倉さんの調査によって、あわら市浜坂や北潟、坂井市三国町安島や崎、福井市鮎川や蒲生など3市3町17集落の方言が三型であることが判明した。

 単に声の高さが3パターンあるといっても、集落によって種類はさまざま。北潟は「上昇」「下降」「平たん」、安島は「大きく下降」「やや下降」「平たん」というから複雑だ。例えば安島では「箸」は声の高さを「大きく下降」、「橋」は「やや下降」させながら発音する。地元の人でなければ聞き分けるのは難しい。

 中世以前の嶺北方言は関西弁とほぼ同じアクセントだったが、江戸時代以降に何らかの理由で各集落で独自の変化を遂げ、二型や三型が生まれたという比較言語学に基づく考察も載せた。

 「方言の多様性は文化の多様性。地域固有の民俗を内包し、郷土愛と個人のアイデンティティーに関わる」と松倉さん。そんな思いから、集落ごとのわずかな差違も見逃すことなく記録に努めたという。

 「福井県嶺北方言のアクセント研究」は309ページ、武蔵野書院刊、1万2100円。福井県立図書館に寄贈予定。