【論説】軍事利用されかねない技術の情報公開を制限したり、生活に不可欠なインフラが止まらないよう国が企業をチェックしたりする「経済安全保障推進法」が国会で成立した。

 国民の生命や財産を守る安全保障に、政府の経済政策や企業活動を結び付ける経済安全保障の議論は、情報通信やデジタルなどのハイテク分野を巡る米中対立の激化を背景に始まった経緯がある。

 安全保障と経済活動はもはや密接不可分の関係にあり、国民生活を守るには一定の規制強化や国家介入は必要だ。例えば、日本経済の屋台骨である自動車産業にとって、電気自動車(EV)に必要な半導体確保などに道筋を付けるのは政府の責務だろう。

 ここに来て、ロシアによるウクライナ侵攻で、経済安保の重要性が一段と増す事態となっている。日米欧は対ロ金融・経済制裁に踏み切ったものの、原油や天然ガスなどエネルギーの対ロ依存度が高い欧州を中心に、厳しい状況に追い込まれている。ロシア抜きの経済構造への切り替えが急務だが、現状は一朝一夕には進まない。

 日本は対ロ依存度が比較的低いが、ロシア市場からの撤退や戦略見直しを余儀なくされる企業も少なくない。経済のグローバル化は各国の成長を後押しした。だが、いったん有事になれば国家の基礎となる重要物資が「敵国」に握られる状況に一変することを世界は今、痛感している。政府はこうした事態にも耐えうる経済構造を構築しつつ、企業活動の活力を維持、向上させる必要がある。

 経済安保推進法は▽半導体などの供給網強靱(きょうじん)化の支援▽情報通信など基幹インフラの安全性の事前審査▽先端技術開発の官民協力▽技術情報の流出を防ぐための特許の非公開化制度―の4項目を柱に、企業活動に対する公的関与を強化。2023年春から段階的に施行するとしている。非公開の特許情報を漏えいさせたり、「特定重要物資」の調達先を隠したりなどした場合には罰則の対象になる。

 鍵を握るのは制度運用の透明性だろう。規制や支援の対象となる企業や設備、特定重要物資などを、国会審議を経ない政令や省令で決めるため、経済界には恣意(しい)的運用への懸念が強く、政府の関与には「国民全体の理解と協力が不可欠」と再三にわたり注文をつけている。不信感を取り除くには丁寧な説明と可能な限りの情報公開が欠かせない。

 国の介入が過大になれば経済活動が萎縮しかねず、企業の自由をできる限り優先させる抑制の効いた運用が求められる。政策執行を事後的に検証できるようなルールづくりも検討する余地があるだろう。